アフリカ最後の植民地といわれる西サハラ。1975年に隣国モロッコに侵攻されて以来、領土の大部分がモロッコ政府の支配下に置かれる。ganas記者はこのほど西サハラに入り、二級市民の扱いを受ける砂漠の民サハラーウィ(西サハラの民)の声を拾ってきた。連載第1回はモロッコ政府の人権侵害に対して抗議デモを続ける学生を取り上げる。
記者がインタビューしたのは、西サハラ最大の都市ラユーン出身のコリカさん(26)とベドリーさん(24)、西サハラに近いモロッコ側の街アッサ出身のビーさん(21)の3人のサハラーウィ男性だ。コリカさんはモロッコの首都ラバトの大学、ベドリーさんとビーさんはモロッコ南西部の港町アガディールの大学に通う。
ベドリーさんはサハラーウィの現状をこう語る。
「サハラーウィは西サハラで理不尽な扱いを受けている。病院に行ってもまともに診療してもらえない。また西サハラには大学がひとつもなく、高等教育を受けるには西サハラを出なければならない。抗議のデモをすると警察に捕まって暴行されたり、レイプされたりする」
服を脱がせて暴行
こうした現状を打破しようと、3人は西サハラでの人権侵害をモロッコ人の学生に伝えたり、大学の内外で抗議デモをする。だがそれは危険を伴うものだ。
コリカさんはこれまでに2回、警察に捕まった。1回目は2016年。不当に起訴されたサハラーウィの学生の釈放を求めて、裁判所の前でデモをした時だった。
モロッコ警察はデモをするコリカさんらを拘束し、警察署に連行した。その後、コリカさんの服を脱がせ、殴る蹴るの暴行を加えたという。
「学生グループのリーダーは誰だ?」
「ほかに仲間はいるのか」
「ポリサリオ戦線(西サハラの独立を目指すサハラーウィの武装政治組織)とのつながりはあるのか」
質問に答えても答えなくても殴られ続けるコリカさん。当時のことをこう振り返る。
「警察は(捜査をしているのではなく)、ただ僕に恐怖心を植え付けたかっただけだ」
2回目の拘束は2020年。モロッコ南西部の街グエルミムの刑務所の前で抗議デモをした時だった。コリカさんは警察署に拘束され、意識を失った。
コリカさんは一型糖尿病をわずらう。体内でインスリンを作ることができず、定期的にインスリン注射を打たなければいけない。だが家に帰れなくなったため注射が打てず、血糖値が上がってしまったのだ。
署内で死なれては困ると考えた警察は、コリカさんを外に放り捨てた。心配して待っていた友人らがすぐさま注射し、コリカさんは一命をとりとめた。