【西サハラの声②】弾圧される伝統音楽家「それでも私は歌い続ける」

ハッサニー音楽の歌い手であるマライニン・シェークシド・ブラヒムさん。モロッコ警察は、西サハラの民サハラーウィの伝統音楽を伝えるブラヒムさんを目の敵にする ハッサニー音楽の歌い手であるマライニン・シェークシド・ブラヒムさん。モロッコ警察は、西サハラの民サハラーウィの伝統音楽を伝えるブラヒムさんを目の敵にする

西サハラの遊牧民サハラーウィの伝統音楽であるハッサニー音楽。その歌い手であるマライニン・シェークシド・ブラヒムさんはこれまで、西サハラで警察から何度も暴行を受け、演奏の邪魔をされてきた。ブラヒムさんは「モロッコ政府はサハラーウィの文化も根絶やしにしようとしている」と憤る。(「西サハラの声」第1回はこちら

結婚式を台無しにする

「フー、アイワイワイワイ!」

太鼓やギターの音が軽快に流れる中、ブラヒムさんはテーブルを叩きながらハッサニー音楽を歌う。曲のタイトルは「西サハラは売り物ではない」。モロッコ政府による西サハラの占領を非難するハッサニー音楽の代表曲だ。

タイトルからもわかるとおり、ハッサニー音楽の特徴はサハラーウィの文化や誇りを歌詞に込めること。美しい砂漠や海といった西サハラの自然、自由だった遊牧民の生活、スペインやモロッコとの戦いなど、をサハラーウィの言語ハッサニー語で歌う。

そんなハッサニー音楽の歌い手であるブラヒムさんはこれまで何度も警察から目の敵にされてきた。2023年12月にも、友人の結婚式に出席した際、警察から暴行を受けた。

ミュージシャンとして結婚式に招待されたイブラヒムさんは会場でハッサニー音楽を歌った。招待客は大盛り上がり。サハラーウィが立ち上げたサハラ・アラブ民主共和国の旗を掲げながら踊っていた。

その時、モロッコ警察が会場に突入してきた。ブラヒムさんを拘束すると、招待客の前で引きずり回し、殴ったり蹴ったりした。結婚式はめちゃくちゃ。ドラムやギターなどの楽器はすべて没収された。警察は帰り際に、こう吐き捨てていったという。

「歌いたければアルジェリア(サハラ・アラブ民主共和国の亡命政府がある)に行くんだな」

ブラヒムさんが歌うたびに警察が来て会を台無しにするため、主催者はブラヒムさんを呼ぶのを躊躇するようになった。没収されることを恐れ誰もブラヒムさんに楽器を貸してくれない。ブジュドゥールやダーフラといった西サハラの他の都市で演奏しようにも検問所で止められる。

これまで結婚式などのイベントで演奏して収入を得ていたブラヒムさんは、完全に仕事を失った。

「私はただ平和的に歌っているだけ。なのにモロッコ警察は私をリンチする。こんな理不尽なことはない」

サハラーウィの男性用の伝統衣装ダラーを着て写真に映る老人。サハラーウィはモロッコ政府から弾圧を受ける今も独自の文化を守り続ける(西サハラ・ラユーンで撮影)

サハラーウィの男性用の伝統衣装ダラーを着て写真に映る老人。サハラーウィはモロッコ政府から弾圧を受ける今も独自の文化を守り続ける(西サハラ・ラユーンで撮影)

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