
南米コロンビアで最初に「かるた部」を立ち上げた人がいる。コロンビア人の合気道家アンヘリカ・ヒメネスさん(45)だ。一瞬の集中力、姿勢を低くした構え、礼儀作法、試合をする際の服装などが合気道と重なることに強く心を惹かれた。いまは娘をはじめとする仲間と、滋賀県大津市の近江神宮で11月に開かれる競技かるたの世界大会に向けて練習に励む。
コロンビア唯一の「かるた部」
ここはコロンビア第2の都市メデジンにある日本文化センター「春のひなた」の一室。畳の上で、アンヘリカさんと娘のファビアナさん(16歳)が向かい合った。静かに手をついて礼をする。
50枚の札を並べ、暗記の時間を終えると、札をさっととるための素振りをする。低い姿勢で構える。和歌が読まれた瞬間、「バンッ」と手で札を叩いた音が部屋に響く。
アンヘリカさんが競技かるたと出会ったのは6年前。メデジン在住の日本語教師である羽田野香里さんに教えてもらったという。すぐに夢中になり、百人一首の札をアマゾンで購入した。
最初は一人で練習し、ファビアナさんや彼女の友人らもやがて加わった。アンヘリカさんやファビアナさんはもともと日本語ができたが、友人らにはひらがなを覚えてもらうところから始めた。最初のかるた大会はアンヘリカさんの自宅で開き、参加者は5人だった。
その後、アンヘリカさんや羽田野さんがメデジンで一緒に経営する、日本語や合気道といった日本文化を教える「春のひなた」の中に、コロンビアで唯一のかるた部「Haruta(ハルタ)」も立ち上げた。
日本人への初勝利で涙
ハルタの部員は現在19人。平日は夜に2時間、土曜日は6時間練習をする。土日に泊まり込みで合宿することも。コロナ禍の間はウェブ会議システムのズームを使い、アンヘリカさんが百人一首の上の句を読み、部員が下の句を探し、その札をカメラで見せる実践練習をしたほか、自作した対戦できるアプリや、暗記アプリの「クイズレット」などを駆使して、レベルアップに務めた。
ハルタは2025年2月、北海道へ遠征し、日本の競技かるた大会に初めて出場した。この大会でファビアナさんは日本人相手に初勝利。母のアンヘリカさんは涙を流して喜んだ。「教えて良かったと心から思った」と振り返る。最近は部員との対戦で負けることも増えたが、「誇らしい気持ち」と相好を崩す。
アンヘリカさんは、大学生のとき授業で合気道に出会って以来の日本通だ。相手を敬う礼儀や袴に惹かれ、一時は首都ボゴタで合気道の道場を経営。合気道のほか、日本語や折り紙、書道も教えていた。いまはメデジンの「春のひなた」で合気道の先生を務める。
「競技かるたも、試合の前に礼をするし、また袴も着る。武道に似ているところが好き。合気道で心と体を、競技かるたで頭を強くしたい。ずっと続けたい。元気なおばあちゃんになりたいから」(アンヘリカさん)