国連世界食糧計画(WFP)ペルー事務所のプログラム・オフィサーとして、首都リマに赴任して3カ月経ったころ、ペルーの貧困の実態を知ろうと、アンデス山脈にある町ワラス(標高3090メートル)に行ってきた。この町には「ツーリスモ・ビベンシアル」(ホームステイ観光)と呼ばれるスキームがあると聞いたため、貧困層が多いアンデスの人たちが何を食べて暮らしているのかを知るのに最適だと思ったからだ。
ワラスに到着し、ホームステイ観光を旅行会社で申し込もうとしたら、とても驚かれた。トレッキングコースが多いワラスは外国人観光客に人気。だがホームステイ観光をする人はほとんどいないという。
私はとりあえず、ホームステイ先を探すため、旅行会社のスタッフと一緒に、ワラスよりさらに標高の高いジョクジャ村に向かった。道中で出会ったスサーナさん(38歳、女性)の家に滞在させてもらうことになった。
スサーナさんの家に着くと、彼女の母ベアトリスさんがいて、驚いた顔で私を見つめ、言った。「この村に外国人が来たのは初めてだ」。ひどく戸惑った様子だったが、とりあえず一泊させてもらえることになった。
ツーリスモ・ビベンシアルに決められた値段はない。ただ、ホームステイ先に負担をかけてはいけない。旅行会社からアドバイスされたとおり、ホームステイ先家族と一緒に食べるパンやハム、チーズ、卵、ツナ缶、野菜などを持参した。ベアトリスさんは「特別な食べ物は何もないよ。貧しいから本当にないよ」とつぶやきながら、昼食の支度を始めた。
炊事は、薪拾いから始まる。その後、火をおこして食事ができあがるまでゆうに3時間はかかった。出された料理は、私が持参したツナ缶、トマト、タマネギを使ったサラダ、ジャガイモのスープと質素なもの。スープは温かくてとてもおいしかったけれど、ジャガイモしか入っていなかった。
次に夕食。コムギとジャガイモのスープの中に、私が持参した卵とチーズを入れてくれた。
この家では庭に、トウモロコシを乾燥・保存するために干してある。「パンやご飯が好きだけれど、買うお金はない。だから普段は自分の畑で取れたコムギ、ジャガイモ、トウモロコシを食べている」とスサーナさん。クイ(モルモット)やブタ、ニワトリ、ネコが食用に、ロバとヒツジが換金動物として育てられていた。
スサーナさんは1歳、11歳、12歳の娘3人と両親と生活している。働き盛りだったスサーナさんの夫は半年前、突然亡くなったという。娘たちはスサーナさんの手伝いをよくして、元気に暮らしているように見えるけれど、コムギ、ジャガイモ、トウモロコシばかりの食事で、成長に必要な栄養が十分にとれているのかと心配になった。
「またおいでね」と温かい言葉をかけてくれたスサーナさん家族。手を振って別れを告げながら、私はまた、鶏肉やパン、コメ、キヌアを持って絶対に訪問しようと思った。(由佐泰子)