軍事クーデターで人生が狂ったカレンニー族の女性、困難は「行動力」で乗り越えられるか

モーさん。明るくて、楽しそうに話す社交的な人柄。ミャンマーの軍事クーデターで絶望的な状況に追い込まれたようには見えない。現在はピンクカード(タイの一時滞在許可証)も取得し、チェンマイのパヤップ大学の学生寮で暮らす。1年目のみ寮費は免除。ただ「もうすぐ出ないといけない」とのこと

口だけの優しさに戸惑う

モーさんはすぐに次の家を探した。今度は、インターナショナルスクールで教師をするタイ人女性とアイスランド人男性の夫婦が暮らす家だ。1歳の赤ん坊がいた。

収入は週3000バーツ(約1万4800円)。住み込みで食事付き。この夫婦はサイドビジネスとして車やバイクのレンタル業を営んでいたため、バイクも自由に使わせてくれた。ちなみにモーさんはこのときもまだピンクカードを持っていない。

生活は徐々に落ち着き出した。たがモーさんはメンタルの問題を抱えていた。故郷シャドウでの空爆がトラウマになって、不眠に苦しむ日々。カウンセリングにも通った。

また、軍事クーデターのせいで大学へ進学できなかったという心残りも強かった。地元の村では高卒は1学年5~6人しかいない。モーさんはエリートのひとりだった。

勉強時間を確保するにも、ナニーとして朝7時から夕方6時まで働かなければならない。ナニーの仕事を一生懸命こなしながら、進学の準備を進めた。

こうした姿勢に感銘を受けたのか、この夫婦は「大学の学費は出してあげるよ。心配しないで」と優しい言葉をかけてくれる。ところが結局は口だけで、お金を貸してくれることさえなかった。

23歳で大学入学、念願かなう

「ナニーで終わりたくない」。モーさんの決意は固かった。

2025年8月、モーさんは晴れて、チェンマイにあるミッション系私立のパヤップ大学に入学した。タイに来て1年4カ月かけてここまで到達した。「嬉しかった」

専攻は、実践的な英語能力を磨く「英語キャリア」。「授業料が最も安かったから決めただけ」とモーさん。といっても1学期の授業料は3万4700バーツ(約17万1800円)。こんな大金は自分の貯金だけでは捻出できなかったから、一部は親に送金してもらった。

「本当は奨学金をもらいたい。でもパスポートがないから申請資格もない。かといってミャンマーに帰ってもどうなるか」(モーさん)

お金の苦労が絶えまなく続くモーさんはこの5月から、学費が免除されるパラミ大学に移る予定だ。専攻は政治・哲学・経済(PPE)。

パラミ大学はユニークなオンライン大学だ。ミャンマーの軍事クーデターを受け、ミャンマー国内外の学生の安全と教育の継続を確保することを目的に非営利団体が運営する教育機関。米ワシントンDCの高等教育認可委員会(HELC)から学位授与のライセンスを取得し、正式に大学として認可されている。

モーさんの当面の目標は大卒の資格をとること。その後は故郷のために何かをしたいという。ただどうなるかはわからない。

二十歳そこそこで激動の人生を歩むモーさんにとって息抜きの方法は、走ること、昼寝すること、無理してしゃべらないこと、バイクに乗ること、山へ出かけること、キリスト教の説教を聞くこと、考えすぎないこと。またチェンマイにはカレンニー族が集まるエリアが11カ所あり、そこを訪れると「故郷を感じられるの」とにっこりする。

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