2030年までに世界の食用魚の3分の2が「養殖」に、世銀などが報告書

ganasのlogo中-315x235

世界の食用魚に占める養殖魚の割合が、2030年までには3分の2近くにまで増加するとの見通しが、世界銀行、国連食糧農業機関(FAO)、国際食糧政策研究所(IFPRI)の共同研究で明らかになった。水産養殖は島しょ国などの開発と持続可能な漁業とのかかわりで近年注目を集めており、養殖魚が世界の食糧安全保障と経済成長の両立に一役買うことが期待されている。

■魚類消費の7割がアジア

世銀などによる報告書「2030年までの漁業資源:漁業と養殖業の見通し(仮題)」では、今後の世界の海産物貿易がどのように変化するかについて、FAOのデータを基に予測している。この報告書の大きな特徴は、「水産養殖が急速に成長した場合」や「アジアのエビ養殖に重大な病気が発生した場合」など、6つの想定されるシナリオのもとで2030年までの海産物貿易の推移を分析している点だ。

近年、「海の幸」である天然漁業資源の捕獲量は横ばいで推移している一方で、世界全体の海産物需要は増加の一途をたどっている。この背景にあるのは、主に中国、インド、東南アジア諸国などにおける中産階級の増加だ。国連の推計によれば、世界人口は2030年までに80億人を突破し、世界の魚類の年間消費量は2006年の1.1億トンから27%増加して1.5億トン(1人あたりの年間消費量は2006年の16.8キログラムから18.2キログラムに増加)になると予測されている。日本を含むアジア地域は、世界全体の魚類消費の7割を占める見込みとなっている。

世界銀行のユルゲン・ボーゲル農業・環境サービス局長は「行き過ぎた捕獲や無責任な捕獲が依然として存在する」と現行の漁業の問題点について指摘したうえで、「生産性の高い天然資源を枯渇させることなく、また貴重な水域環境を損ねることなく魚類を生産し続けることは、非常に難しい」と天然漁業資源による食料供給の限界について述べている。

■養殖魚の比率は現在48%

天然漁業資源の枯渇が国際的に問題視されるなか、日本の水産庁は3月10日、親魚が減少している「本マグロ」(太平洋クロマグロ)について、日本周辺での捕獲に関する規制を強化する方針を発表した。米国に次ぐ世界2位の魚類輸入国である日本にとっても、漁業の持続可能性は喫緊の課題となりつつある。

そこで急速に増加する水産需要を満たすために、近年改めて注目されているのが食用魚の「養殖」だ。養殖による世界の魚類生産量は、遺伝子技術の発達や病気予防の向上、生産コストの低下などにより、過去30年間に年間平均8%の割合で増加、1981年の520万トンから2011年には6270万トンへと大きく拡大した。「養殖魚」が食用魚に占める割合も1980年の9%から2011年には48%へと上昇しており、さらに2030年には62%になると予測されている。こうした養殖のビジネスチャンスを見越した投資も拡大してきているという。

養殖によって生産された魚類は重要な食料供給源となり人々の生活を支えるだけでなく、漁業に依存する小規模なコミュニティに雇用の場を提供し、持続的な収入の機会を創り出す。だが、一方で、養殖場での病気の発生など、従来から養殖業に打撃を与えてきた要因の克服など課題も残されている。

FAOのアルニ・M・マタイアサン水産・養殖局事務局次長は「責任ある開発と管理を備えた養殖であれば、世界の食糧安全保障と経済成長に大きく寄与できるだろう」と養殖業の可能性を強調している。養殖技術の開発分野でイノベーションが起こりうる環境を整備することが、養殖業の発展のために必要だと報告書は論じている。(鈴木瑞洋)