
夫を含む親せき4人を50年以上続く内戦で殺され、コロンビア第2の都市メデジンの郊外にある貧困地区アヒサルに避難してきた女性がいる。マルタ・エレナさん(42歳)だ。今は氷を売って、戦闘がない場所で家族5人で暮らす。生活は苦しい。だが「安全に暮らせるだけで満足」と語る。
食事はごみ箱からとってくる
「今日の朝ごはんは市場のごみ箱で拾ってきたトマトよ」。マルタさんが見せてくれたのは冷蔵庫に入ったトマト。傷が少しついているが、食べるにはなんの問題もなさそうだ。
娘のロズミラさん(27歳)は時々肉屋で、商品にならない肉の切れ端をもらってくる。「私は恥ずかしくてできないよ」とマルタさんは呟く。
コロンビアの大都市では、食べられる野菜をごみ箱の中から簡単に見つけられる。だが、メデジンから約5時間離れた、マルタさんの故郷カニャスゴルダスではそれは困難。「生活はもっと苦しいだろう」とマルタさんは推測する。
ロズミラさんは15歳の時、コロンビア政府に国内避難民申請を出した。ところがどれだけ待ってもお金をくれるどころか、レスポンスすらない。その後も繰り返し申請したが、12年経った今でも進展がない。コロンビアには国内避難民を助ける制度があり、補償金(最大40カ月分の最低賃金に相当)を受け取れるほか、健康、教育、住宅、雇用、メンタル(満足と尊厳の回復)などの面でサポートを受けられる。だが現実は享受していない人も少なくないのが現実だ。
ロズミラさんは現在、米国の会社から10数年前に無料でもらった冷蔵庫で氷を作り、それを売って生活の足しにしている。そのほかにも一緒に住む夫がレンガを作って、そこで得たお金で生活費(1歳児のおむつなど)をまかなう。
はた目から見れば、マルタさんの生活は快適だとは言えない。だがマルタさんは今の生活に満足している。
こう考えるのは過去の壮絶な体験があるからだ。マルタさんが生まれたカニャスゴルダスは、国軍、右派の武装勢力パラミリタレス、左派ゲリラが入り乱れ、戦闘が日常的だったところだ。
マルタさんの家にも、顔を隠したパラミリタレスの兵士がやって来た。彼らはマルタさんの家の中に、何かわからない大きな機材を置くように指示した。言うことを聞かないと殺されるため従った。また、パラミリタレスの兵士を少しの間匿うようお願いされたこともあるという。
「言うことを聞かないと殺されるかも」と恐怖で震えたとマルタさんは語る。3人のおじが実際、殺された。だがそれがどこで誰にどう殺されたのかは不明のまま。20年前におばも突然、行方不明になった。遺体も見つからず、生きているかどうかもわからない。「きっと亡くなっているのだろう」(マルタさん)

マルタさんの家にある立派な冷蔵庫。数日に1回、野菜を集めて保管しておく。冷蔵庫の中にはトマトやバナナ、レモンが入っていた