ミャンマー労使問題の裏に「汚職」あり、賄賂に苦しむ労働者たち

不当解雇を巡って今も法廷で闘うティーリーさん。「将来は自分で商売を始めたい」と語る

経済が急速に発展するミャンマーで、労使問題が多発している。ヤンゴン市北部のラインタヤ工業団地にある縫製工場を解雇され、現在も法廷で闘い続けるティーリーさんは「ミャンマーの労使問題は政治(汚職)の問題だ」と強く訴える。

ラインタヤ工業団地は、ヤンゴン市中心部から北西に1時間ほどのところにある。ティーリーさんは高校を卒業後、家業であった縫製の仕事を始めた。ところが22歳の時に父親が他界したため、ラインタヤ工業団地に入居する台湾系の縫製工場で働くことになった。

ところがその工場は、「勤務態度が良くない」「仕事が遅い」などの理由で、約束した賃金を従業員に支払わないことが常態化。状況の改善を求め、従業員は2013年にストライキを打った。しかし結果は、ティーリーさんを含む労働組合執行部の7人の女性の解雇。ティーリーさんはその後、FTUM(ミャンマーの労働問題の解決をサポートする財団法人、現CTUM)の支援を受けながら、解雇の撤回を求めて法廷で闘っている。

ミャンマーでは、労働者に対する不当な弾圧が少なくない。だが労働者を保護する法律がないというわけではない。ティーリーさんは「法律そのものが問題なのではなく、それをどう運用するかに問題がある。ミャンマーでは、企業が行政に賄賂を渡し、自分に都合良くすることができる。つまりこれは政治の問題」と語る。

ミャンマーは憲法上は三権分立をうたう。だが実質は行政(大統領府)が司法をコントロールしている。大統領府が2016年4月27日に発表した要人の序列リストを見ても、大統領や副大統領、下院・上院議長の下に、連邦最高裁判所長官が位置づけられている。実際、行政に賄賂を払い、間接的に司法を自分に有利なように動かす企業は後を絶たないという。

ティーリーさんの裁判の場合、ミャンマーの労働組織法では労働者の団結権が認められているにもかかわらず、従業員は不当に解雇された。ティーリーさんは「台湾系企業は賄賂を通じて裁判を『延期』させることを繰り返している。そうすることで、解雇の撤回を求める組合側の資金が尽き、裁判を続けられなくなるのを待っているのだろう」と話す。

CTUMは現在、解雇された組合幹部7人に新たな縫製の仕事と収入を用意し、生活と裁判を支えている。こうした支援はもちろん不可欠。だが労働者の権利をきちんと確保していくためには、労使裁判の背後にある「汚職」をいかになくしていくかが重要といえそうだ。