モバイルマネー革命! 銀行口座もたないベナン人の生活を激変させたのは「MTN」

左がボルフィ・ノウモンビさん。真ん中はベナンの地図、右が筆者左がボルフィ・ノウモンビさん。真ん中はベナンの地図、右が筆者(ベナン・コトヌーで撮影)

西アフリカのベナンで、携帯電話で送金できるサービス「モバイルマネー」が爆発的に普及している。ベナン人のおよそ9割にあたる1000万人が利用するのは、南アフリカ発の「MTN」だ。MTNは、送金できるだけでなく、買い物した際の支払いにも使えるなど、ベナン人の生活を劇的に便利にさせた。

「MTNは、私たちの生活を大きく変えた。なにしろ送金が確実にできるようになったのだから」。こう話すのは、ベナン最大の都市コトヌーにあるIT会社に勤めるボルフィ・ノウモンビさんだ。

ベナン人の多くは銀行口座をもたない。このためモバイルマネーが普及する前は、誰でも簡単に利用できる送金手段はなかった。遠くにいる家族にお金を送る場合、かつてはタクシードライバーをはじめ運び屋にお金を託していたという。ただ確実に届けてくれる保証はなく、お金を持ち逃げされることも。「運び屋との信頼関係が成り立って初めてお金を送ることができた。送金はベナン人にとって簡単ではなかった」(ノウモンビさん)

ベナンでMTNが普及し始めたのは2006年ごろ。2001~2006年の5月まではアリバ(Areeba)という会社がモバイルマネー事業を運営していた。この会社を買収したのが、アフリカやアジア、欧州にも参入していたMTNだ。MTNがモバイルマネーをベナン人の生活にとってより実用的なものに変えていった。

ノウモンビさんは「今では、どこにいても携帯さえあれば送金できる。この前だって、ベナン北部の村に住む祖母に医療費を送金したよ」と話す。

ベナン人にとって銀行口座をもつことは簡単ではない。口座を開設する際は身分証明書(IDカード)が必要だ。だが出生証明書がない人はIDカードを取得できない。このため銀行口座をもたないベナン人は多いのが実情だ。

銀行口座を開くことに比べてMTNの登録は圧倒的に簡単。携帯電話のSIMカードに使用者の個人情報を登録するだけで、モバイルマネーを利用するための口座をネットワーク上に開設できるからだ。「銀行口座をもたない多くのベナン人にとって、携帯電話が自分の銀行になる」(ノウモンビさん)。この利便性が受け、モバイルマネーは一気に普及した。

MTNのメリットは送金だけではない。送金手数料の安さも、銀行より上だ。150万〜200万セファ(CFA 、日本円で30万〜40万円)を送金する際の手数料は、送る側と受け取る側の双方がMTNユーザーであればたったの500CFA(約100円)。送る側がMTNユーザーで、受け取る側がMTNユーザーでない場合は1万6000CFA(約3200円)。どちらもMTNユーザーでない場合は、携帯電話を契約する際に個人情報を登録しているので送金はできるが、手数料は1万9000CFA(約3800円)と高くなる。

アボメカラビ大学の学生プリシリア・アモーソさんは言う。「私は銀行口座をもっている。でもMTNの送金手数料のほうが安いからMTNを使っている。これはベナンでは普通」。つまりベナンでは銀行口座の有無にかかわらず、モバイルマネーは利用されているのだ。

MTNから、MTNの口座に預けている現金を引き出すことも可能だ。国内の銀行にはATMが置かれ、メインのユーザーはMTN利用者。手数料は、150万~200万CFA(30万~40万円)を引き出す場合で1万5000CFA(約3000円)。ちなみにベナンではMTNで給料を支払う場合も少なくない。

すごいのはMTNを使って買い物もできることだ。大型スーパーなどで使えるという。学費やテレビの衛星放送「カナルプルス(CANAL+)」の受信料もMTNで払える。MTNは目下、老若男女誰もがどこでも使えるモバイルマネーを目指し、地方に設置するATMも増やす方針だ。

ベナンには実は、MTN以外にもう1つのモバイルマネーがある。それは、アラブ首長国連邦(UAE)系のエティサラット(Etisalat)社が運営するMOOV(ムーブ)。