世界に40億人「低所得者層」の暮らし改善ビジネスアイデアコンテスト、最優秀賞は「ケニアでの医療機関向けがん検査機器レンタル」!

ケニアで医療機関向けに検査機器をレンタルするビジネスアイデア「Connect Ahya」を発表した嶋田庸一氏。写真の子宮頸がん検診デバイスは、スマホと接続してクラウド上にデータ保存ができる。医療データを蓄積・解析することで、さらに検査精度を上げることが期待されるケニアで医療機関向けに検査機器をレンタルするビジネスアイデア「Connect Ahya」を発表した嶋田庸一氏。写真の子宮頸がん検診デバイスは、スマホと接続してクラウド上にデータ保存ができる。医療データを蓄積・解析することで、さらに検査精度を上げることが期待される

ビジネスを通じて、世界に40億人以上といわれる低所得者層(年間所得3000ドル=約31万8000円以下)の暮らしを改善したい――。そんな目標を掲げてビジネスモデルを競う「第5回40億人のためのビジネスアイデアコンテスト(主催:アイ・シー・ネット)」が2月11日、都内で開催された。構想段階のアイデアのほか、一部実施中のビジネスも審査の対象となった。

■がん検診の検査精度が60倍に!~ケニア~

起業部門の最優秀賞に選ばれたのは、ケニアで医療機関向けに検査機器をレンタルするビジネスアイデア「Connect Afya(Afyaはスワヒリ語で健康の意)」を応募した嶋田庸一氏。賞金100万円と、最大200万円の事業化調査費を獲得した。嶋田氏がこのアイデアを考案したのは、ケニアでがん検診の受診率を高め、がんで死亡する人を減らしたいとの思いからだったという。

ケニアではまだ、がん検診や治療のための医療機器が不十分な医療機関が少なくない。そのためがん患者の5人中4人が末期がんで見つかっており、発見時にはすでに手遅れのことが多いという。嶋田氏は検診デバイスと、検診データを蓄積・分析するITプラットフォームを医療機関が活用しやすくすることでがんの早期発見が実現できると考え、検診デバイスの安価なレンタルサービスを提供するビジネスを考案した。

例えば医療機関が1台約20万円の子宮頸がん検診デバイスをレンタルで使えるようになれば、検査精度が従来の「目視」検査に比べておよそ60倍になる可能性がある。他にも乳がんの腫瘍があるかどうか(再発、転移)が調べられる血液検査デバイスなどのレンタルサービスを提供する方針だ。

レンタル提供する検診デバイスは、スマートフォンを介してネットにつながり、検診結果をクラウドサーバーに蓄積できる。データをケニアの政府機関と共有し、同国のがんの実態を明らかにしたい考えだ。

「ケニアでは現在、がん検診を受ける人が少ないため、がん患者数が過小に見積もられている」(嶋田氏)。がん患者の統計データを製薬会社などに示すことで製薬会社や医療機器メーカーなどが積極的にケニアの医療市場に参入するよう促し、ケニアの国民が受けられる医療サービスをより充実させたいとの狙いもある。

がんの予防・早期発見だけでなく、がんに罹った人に対してのサポートも想定。経済成長によりケニアの1人当たり国内総生産(GDP)は約1500ドル(約15万9000円、2016年時点)まで伸び、「経済的な余裕が生まれ、医療に興味をもつ人が近年増えてきた。しかしがん治療を受けるには、メディカルツーリズムでインドなどに行かなければいけないと思われている。渡航費を負担できない人は、がん治療そのものを諦めてしまう」(嶋田氏)。

実際にはケニアにもがん治療が受けられる医療機関がある。しかも国内で受けるがん治療は健康保険の対象になる。そこでConnect Afyaでのスマートフォンのサービスを通じ、ケニアの人たちに、国内でもがん治療が受けられることを知らせ、具体的な医療機関の情報なども提供する。「ケニアのがん患者が、がん治療を受けるチャンスを逃すことがないようにしたい。がん治療が実施できるケニア国内の医療機関とパートナシップを結ぶべく、交渉していく」と嶋田氏は語る。

■気象情報をスマホで提供、農作物の被害を最小限に~タンザニア~

優秀賞(賞金10万円)を獲得したのは、航空会社でディスパッチャー(パイロットに気象予報を提供する)の補助として勤務していた氏家幸大氏のアイデア「Weather Watch-40億人のための気象リスクマネージメント」だ。氏家氏は「タンザニアではまだ、気象リスクへの対応が不十分。スマートフォンを通じて気象情報と対応策情報を農家に提供し、農作物の被害を減らしたい」とビジネスを考案した動機を語る。

熱い日が長く続き過ぎるとイネなどの農作物に悪影響が出るが、タンザニアでは何度の気温が何日くらい続くのかといった気象情報を提供する機関がない。そのため農家は、天気を見越して農作物の被害を少なくする具体的な対策に踏み切ることができない。

この課題に対して氏家氏は、タンザニア国内に気象観測機器を設置して気象観測網を整備し、IT技術でそのデータを集め解析することを考えた。それによって定量的な気象観測値に基づく気象予報を、農家に提供できる。気象情報とともに、タンザニアのコメやトウモロコシ生産の専門家と提携して、大規模災害によるリスク回避の方法を示すことも想定している。干ばつなど、個人では対応しきれない大きな災害が予想される場合には、「農業保険」への加入を勧める方針だ。

気象情報の提供先としては農家だけでなく、衣料品会社やスーパーなどの小売業者も想定している。「天気や気温の予報から、売れ筋商品と売れない商品の予測につながる。計画的な製造や仕入れができ、販売機会を逃がさなくなるはず」と氏家氏は期待する。

「Weather Watch-40億人のための気象リスクマネージメント」を提案する氏家幸大氏。農家に対し、従来よりも正確な気象情報の提供に加え、災害対策情報も提供する。今後は衣料品会社や小売り業者へのサービス提供も視野に入れている

「Weather Watch-40億人のための気象リスクマネージメント」を提案する氏家幸大氏。農家に対し、従来よりも正確な気象情報の提供に加え、災害対策情報も提供する。今後は衣料品会社や小売り業者へのサービス提供も視野に入れている

■カレー味歯磨き粉で子どもに歯磨き習慣を!~フィリピン~

小堤健史氏の「歯磨きプロジェクト-Smile with Your Teeth Project-」は、フィリピンの貧困層に対して歯磨き指導や、歯ブラシ・味付き歯磨き粉を販売するというビジネスアイデアだ。

小堤氏がマニラで貧困層の子ども40人ほどに聞いてみたところ、6割以上の子どもが「今まで一度も歯磨きをしたことがない」と答えたとのこと。「歯磨きの習慣がないため虫歯が多く、子どものうちに永久歯を失うことが少なくない」(小堤氏)。この体験がビジネスアイデアを考案するきっかけとなった。

小堤氏はまず、学校などで無料の歯磨き教室を開催することから開始。さらに子どもが進んで歯磨きをし、それが習慣になるような歯ブラシと歯磨き粉の商品開発に発展した。例えば、子どもたちへの聞き取りで人気の高かったチョコレート味、ピーチ味、カレー味の味付き歯磨き粉を開発し、すでに販売を始めている。また、「歯磨き粉を買っても、失くしてしまう」との声に応え、歯磨き粉と一体となった歯ブラシも販売しているという。

小堤氏は、オーラルケアビジネスでフィリピン進出を狙う日本の企業に対してのコンサルティングビジネスも視野に入れている。「近年、フィリピンではオーラルケアビジネスが拡大している。日本の企業にもビジネスチャンスだ」(小堤氏)と語る。

■小売店の商品仕入れをスマホで管理~ウガンダ~

相木悠一氏が進めているのは「キオスク支援プラットフォーム Shopto」。アフリカ各国にある駅構内の小売店(キオスク)を対象に、アンドロイドOS搭載のスマートフォン向けに売上管理アプリを提供し、スマホを通じて仕入れ商品を発注できるようにする。まずはウガンダで事業を展開したい考えだ。

アイデアの狙いについて相木氏は、「ウガンダのキオスクは、店舗ごとに商品を少量ずつ仕入れている。そのため仕入れ値が高くなる。Shoptoにより100店舗以上のキオスクの受注をまとめて一括発注することで、仕入れ値を下げることができる」と語る。

■稲作と電力で太陽をシェアリング~インドネシア~

チームSURYAがインドネシアのスラウェシ島で進めている「SURYAプロジェクト-ELECONNECT-」は、太陽光発電と農業で太陽をシェアする、というビジネスアイデアだ。

「イネは日射量が強すぎてもダメになってしまう。スラウェシ島の日射量の月平均は東京の2.5倍。ソーラーパネルの設置によりイネに直接届く太陽光を調節することで、稲作にもよい影響が出る」(佐久間氏)。電力不足と過剰な日射量による不作という2つの課題を、ソーラーシェアリングで一気に解決しようというわけだ。

地主に借地料を払ってソーラーパネルを設置する。農地全体に設置すると稲作ができなくなってしまうので、一定の間隔を空けて設置するのがポイントだ。

発電した電気は電気が足りない農家に有償で提供する。余った電気は政府に買い取ってもらう。佐久間氏とともにこのプロジェクトに取り組んでいるメンバーのひとりは「スラウェシ島の農村部では『電気がこないから』と冷蔵庫を棚として使っていた。そんな生活を島からなくしたい」と期待を込める。