カンボジア・シェムリアップ最大の市場「プサ・ルー」の中には牛肉店が集まる一角がある。売り手のほとんどは、カンボジア人口の4%を占めるイスラム教徒(ムスリム)の女性たちだ。ここには知られざる「助け合いの精神」があった。
「自分の店の牛肉が売れちゃったら、仲間の店に残っている分を回してもらい、それを売る。助けあっているんだ」。こう話すのは、プサ・ルーの牛肉店で働く32歳のムスリム女性。彼女はプサー・ルーで牛肉を売り始めて10年経つ。
牛肉を売るムスリム女性たちは、売れ残って廃棄する肉を出さないよう、余った牛肉を融通しあう。それでも売れなかった分は近隣のレストランに安く売るという。彼女たちの「助け合いの精神」は、ごみの削減と売り上げアップというダブルの効果を生んでいる。
対照的に、鶏肉・豚肉を売る仏教徒たち(人口の9割を占める)は、商品のシェアはしていないようだ。「売れ残れば冷凍して再び売る。だけど、最終的にごみとなることもある」と肉屋の店主らは言う。ちなみに鶏肉・豚肉のほとんどは、タイ最大の財閥チャルーンポーカパン(CP) グループから仕入れるという。
ただ仏教徒の間で助け合いの精神がまったくないというわけではない。プサ・ルーにいる物ごいに、お金をあまり持たない仏教徒の高校生が寄付することも。「貧しい人は、見た目で分かる。本当に貧しいとわかれば、助け合うのは当然のこと」と女子高生のニンさんは話す。
プサ・ルーで精肉を売る店の売り上げは年々、牛・豚・鶏にかかわらず、すべて右下がりだという。ムスリムも仏教徒も「(景気が悪くて)休みをとる暇はまったくない」と口をそろえる。カンボジアの国内総生産(GDP)成長率は2011年以降、年7%前後をキープしている。だがプサ・ルーの精肉販売の未来は厳しそうだ。