行方不明になったメキシコ人は3万7000人超! 麻薬組織と政府が結託している?

日本ラテンアメリカ協力ネットワークが「国連強制失踪者デー」(8月30日)に開いた「国連強制失踪者デーに考えるメキシコの現状」に登壇したルシア・ディアスさん(慶応大学・三田キャンパス)

メキシコ東部にあるベラクルス州の行方不明者家族の会「ソレシートの会」のルシア・ディアス代表は、日本ラテンアメリカ協力ネットワークが都内で主催したイベント「国連強制失踪者デーに考えるメキシコの現状」に登壇し、この10年でメキシコ全土での行方不明者が3万7000人を超えたことを明らかにした。誘拐事件の多くは武装化したメキシコの麻薬組織による犯行とされる。ディアスさんは「メキシコ政府は事件が起きているのを知っているのに(捜査に)動こうとしない。米国との麻薬取引による利益を優先しているからだ」と訴えた。

2018年6月にメキシコ政府公安局が発表した統計によると、ここ10年でメキシコ国内で行方不明となった数は3万7000人以上。この約5割は29歳以下だ。最年少は2歳。若者や子どもの失踪事件が相次ぐなか、ディアスさんは「警察当局は、行方不明になったのは勝手に失踪したからだという言い訳ばかり。(メキシコ国内の)子どもたちが犯罪者になりえるはずがない」と憤る。

ディアスさんはまた、「犯罪者しか失踪しないと認識する人が少なくない。一般のメキシコ人たちは(失踪事件について)何が起きているのかを知らない」と嘆く。政府の発表した行方不明者の数も「(警察)当局は失踪の届け出を嫌う。だから本当はもっとたくさんの行方不明者がいるはずだ」(ディアスさん)。

ディアスさんは、行方不明となった息子を探す母の一人だ。息子のルイス・ギジェルモさん(当時29歳)は2013年6月、ベラクルス州の自宅から身代金目的で誘拐され、5年以上たった今も行方不明のまま。ディアスさんは政府に何度も捜索を要請したが、まったく動いてくれなかったという。

「行方不明者の家族である私たちが捜索するしかない」と2014年に行方不明者の母親たち8人で「ソレシートの会」を立ち上げた。現在のメンバーは250人超。行方不明者を捜索するほか、「家族の安否を明らかにしてほしい」と政府に訴えたり、強制失踪に関する法律の改定を政治家に働きかけたりする。

16年6月には、ベラクルス州郊外のサンタフェの丘に死体遺棄現場があるとの情報をディアスさんらは得た。捜査許可を警察から得るのに2カ月かかった。8月にソレシートの会の捜査から発見されたのは、295人の白骨化した遺体。「日本でこんなことが起きたら、日本の首相は何も言わないのか」とディアスさんは問いかけ、人権が尊重されないメキシコの現状を訴えた。

ディアスさんはさらに、メキシコと米国の麻薬取引についても言及。1994年に締結された北米自由貿易協定を機に、メキシコと米国の麻薬の密輸は活発になったという。2006年、当時のカルデロン大統領が麻薬組織を撲滅させようとしたが、かえって国内の麻薬組織の武装化は加速。2017年のメキシコ全土の行方不明者の数は2006年以降で最多となった。

「米国(政府)の裏の顔は、たくさんの麻薬を(メキシコから)国内に送れというもの。なぜなら米国には何万もの麻薬中毒者がいるから」とディアスさん。「メキシコ政府には米国との利害関係よりも勇敢さを求めたい」と強い希望を口にした。