コロンビアで立ち往生するベネズエラ人・日本人の新婚カップル、「危険すぎてベネズエラに戻れない」

チャーミングな笑顔が印象的なケニア・スルバランさん。コロンビア・メデジン市内のカフェで撮影チャーミングな笑顔が印象的なケニア・スルバランさん。コロンビア・メデジン市内のカフェで撮影

新婚旅行で日本に行き、コロンビアのメデジン経由でベネズエラへ帰ろうとしたところ、ベネズエラに戻れなくなったカップルがいる。このカップルは男性が日本人、女性がベネズエラ人。メデジンで立ち往生するふたりは「ベネズエラの治安の悪さは深刻。危険すぎて帰れない」と口をそろえる。

妻のケニア・スルバランさん(29歳)は、ベネズエラの首都カラカス近郊のマラカイ出身。日本人男性と同国東部のメリダで出会い、2018年6月に結婚した。メリダに住んでいたが、3カ月の予定で日本に新婚旅行へ。2019年1月にメデジンに寄って、陸路でベネズエラに戻ろうとしたところ、ベネズエラ情勢が予想以上に悪化したことから、メデジンの知り合いの家に居候している。

国際救済委員会(IRC)によると、ハイパーインフレによる深刻な物不足を理由に、国外に逃れたベネズエラ人は2015年~2019年2月で300万人を超えた。1日5000人がベネズエラから出国するという。この多くの行き先がコロンビアだ。観光ビザで入国したスルバランさんは「私たちは難民ではない」と言うが、メデジンに滞在してすでに3カ月経つ。

ベネズエラはもともと治安が悪い国として知られていたが、ひどい食料難からいまや、身を守ることが困難なレベルだ。スルバランさんの父も2年前、マラカイで強盗に殺された。

実は、ベネズエラでは医師であるスルバランさんも1年前、メリダの路上で若い男性に拳銃を突き付けられ、「携帯をよこせ」と脅されたことがある。スルバランさんはそのとき、あまりに怖くて笑いながら強盗を抱きしめ、「ごめんなさい。携帯持っていなくて」と、血まみれの生理用ナプキンを差し出したという。強盗は「お前は貧乏なんだな」と彼女を慰め、何もとらずに去っていった。

ところが事件の3日後、その強盗は病気の子どもを連れ、スルバランさんが勤務する病院にやってきた。スルバランさんは再び恐怖に襲われたが、「彼もまた生きるのに必死なはず」と自分に言い聞かせ、警察には通報しなった。

スルバランさんによると、ベネズエラの医師の月給は、ハイパーインフレのせいもあって、わずか700円相当(日給ではない)。食料を手に入れることは容易でなく、生活できないのが現実だという。

「医者に限らずベネズエラに住む人たちは、ジャガイモやバナナなどの皮に味付けして食べている。栄養不足、ストレス、不安で、10人に7~8人は栄養失調。ベネズエラ国民の体重は1年で平均17キロ減ったとのデータもある。私のおじは3カ月で60キロ減った」(スルバランさん)。食料難で激やせする状況を、ベネズエラではマドゥロ大統領にちなんで「マドゥロ・ダイエット」と揶揄するが、大半の国民が飢えるという緊急事態に陥っている。

スルバランさんは現在、メデジンで、ベネズエラ以外の国でも医師として働けるように医学をひとりで勉強する日々を送る。コロンビアではビザの問題から、医師としてはおろか、何の仕事もできない。「私にとって医師は大好きな仕事。いつかは大学院に進学して、内科か精神科の専門医になりたい」と話す。