紛争勃発から9年のいまが最悪の人道危機、シリア支援団体「空爆で振り出しに戻った」

政府軍が爆撃したイドリブの街中(Merna AlHasan/SSJ)政府軍が爆撃したシリア・イドリブの街中(Merna AlHasan/SSJ)

シリア政府軍が2019年12月~2020年3月にイドリブやアレッポを含むシリア北西部を空爆したことを受け、東京に本部を置くNPO法人スタンドウィズシリアジャパン(SSJ)は5月31日、オンラインイベントを開催した。登壇したSSJのシリア人現地スタッフ、ムハンマド氏は「シリアでの人道支援は何度もやり直しを課せられる。だが苦しむ家族や仲間を諦め、背を向けることはできない」と語る。

■古着ビジネスを立ち上げたのに

SSJがシリア北西部で人道支援を始めたのは2019年4月。マンスリーサポートやイベントから集めた月20万〜25万円を使って、シリア人の経済的な自立を促すほか、子どもたちの学校への復帰、家の再建、雇用の創出などに力を注ぐ。現在の支援対象は5つの家族だ。

ところが3月まで続いた空爆で状況は一変した。車椅子で生活するシリア人のためにせっかく作った洋式トイレも、空爆で家そのものが壊されてしまった。ムハンマド氏は「避難した先ではテント生活。普通の生活を送る夢は壊された」と肩を落とす。

SSJの支援を受けてビジネスを立ち上げ、軌道に乗せつつあったのに、空爆で振り出しに戻った家族もいる。アレッポ県郊外のアナダーンで暮らすアナスさん一家は2019年の10月、古着の販売を始めた。寄付金の1万5000円を元手にジャケットやコートを仕入れ、アナダーンで売る。自立できるめどが立ってきた2月、空爆を受け、店を閉めた。

避難先では収入がなくなった。アナスさん一家に、SSJは再び、家賃を含む生活費(1カ月約3万円)を補助し始めた。

避難するたびに生活はリセットされる。ムハンマド氏によると、避難をすると、8割程度の人が仕事を失うという。また空爆は突然やってくるため、逃げる際にもっていくのは必要最低限のもの。「冬だった2月は毛布、寝袋、服だけを抱えて逃げた。これまで5回以上も避難した人もいる」とムハンマド氏は説明する。

空爆の被害を受けるのは、SSJのスタッフも同じ。家を失い、避難を強いられる。ムハンマド氏は「アサド政権は、反政府勢力が支配する地域の住民を支援するNGOもテロリストとして扱う。特に標的にされるのは、人道や医療の支援にかかわる命をつなぐNGOだ」と話す。

■ドラえもんの国からプレゼント

SSJの支援の特徴は、家族のように接することだ。

空爆が続くなか、SSJは子どもたちに喜んでもらいたいと考えた。5月末のイード(ラマダンの終わりを祝うお祭り)でSSJは、17人の子どもにプレゼントを贈った。新品の服、靴、鞄、アクセサリーなどだ。「このプレゼントはどこから来たの」と喜ぶ子どもたちに、ムハンマド氏は「ドラえもんの国からだよ」と説明したという。

SSJの支援はまた、家庭の事情で学校に行けない子どもたちを復学させる成果も出した。SSJが支援する5つの家族のうち、支援し始めた当初、学校に通っていた子どもはゼロ。水くみなどの家事をしたり、仕事をしたりして、学校に行く時間がなかったからだ。

そこでSSJが生活費をサポート。必需品の買い物も手伝うようにした。その結果、子どもたちは労働から解放され、学校に戻れるように。「私たちの活動のなかで最も希望をもたらすもの」とムハンマド氏は言う。

シリア北西部の学校は3月14日以降、新型コロナウイルスの感染拡大から閉鎖中だ。このあいだに学校はワッツアップ(通信アプリ)を使って、子どもたちへ授業動画や宿題を送る。

ただ通信費が家計を圧迫することもあって、この遠隔授業に参加できる子どもはわずかだ。しかしSSJが支援する家族は通信費を約3万円の支援金から捻出できる。そのため学習についていけているという。

■ひとつ屋根の下に29人

シリア北西部ではいまのところ、新型コロナの感染者はひとりも出ていない。「しかし感染が広まったら最悪の悪夢になるだろう」とムハンマド氏は懸念する。SSJは4月から、消毒液やせっけんを100世帯に配った。

避難先では3密は避けられない。家が壊された家族は友人の家などに身を寄せる。1つの家に8つの家族(29人)が一緒に暮らすこともあるという。

コロナに感染しても、シリアでは十分な医療サービスを受けることは難しい。ロシアの支援を受けるアサド政府軍が病院を破壊してきたからだ。世界保健機関(WHO)によると、3月まで続いた空爆で、シリア北西部では新たに80の病院が閉鎖した。

空爆を受け、トラックで緊急避難するシリア人たち。2020年1月に撮影(写真提供:SSJ)

空爆を受け、トラックで緊急避難するシリア人たち。2020年1月に撮影(写真提供:SSJ)

イードでSSJは子どもたちに新品の靴や服をプレゼントした(写真提供:SSJ)

イードでSSJは子どもたちに新品の靴や服をプレゼントした(写真提供:SSJ)

新型コロナ対策で消毒液やせっけんを配るSSJのスタッフ(写真提供:SSJ)

新型コロナ対策で消毒液やせっけんを配るSSJのスタッフ(写真提供:SSJ)