「アサド政権から支援を受けたくない」 トルコ・シリア大地震で被災したシリア人が訴え

震災が起きてから、Stand with Syria Japanの支援物資を配るシリア人スタッフのムハンマド・スラージュさん。体制派、反体制派に関係なく被災者に物資を届ける(写真提供:NPO法人Stand with Syria Japan)震災が起きてから、Stand with Syria Japanの支援物資を配るシリア人スタッフのムハンマド・スラージュさん。体制派、反体制派に関係なく被災者に物資を届ける(写真提供:NPO法人Stand with Syria Japan)

「シリア北西部に住んでいる人は、アサド政権(シリア政府)から家や財産を奪われ逃げてきた人。そんな人たちにシリア政府からの(政治がらみの)支援が入っても幸せだと感じると思いますか」。シリア北西部でトルコ・シリア大地震の被災者を支援するNPO法人スタンド・ウィズ・シリア・ジャパン(SSJ)の現地スタッフ、ムハンマド・スラージュさんは、SSJが開催したオンライン緊急セミナーでこう訴えた。

アサド政権はISよりひどい

シリアの被災状況は深刻だ。3月3日の時点でシリア側の死者は8000人以上。5万世帯以上が家を失ったといわれる。食料、水、テント、生理用品などすべてのものが足りず、被災者は寒さと空腹、恐怖にさいなまれている。

だがスラージュさんはアサド政権を介した「支援」を断固拒否する。なぜならシリア北西部に住む人たちは、アサド政権に長い間苦しめられてきたからだ。

シリア北西部は反体制派が支配する地域。住人の多くがアサド政権から逃れてやってきた避難民だ。アサド政権はかねてから、この地域に対して空爆したり補給路を絶ったりしてきた。

「アサド政権が民間人を殺害した数は圧倒的」。こう話すのは、今回の緊急セミナーに登壇した軍事ジャーナリストの黒井文太郎さんだ。

国際人権団体「シリア人権ネットワーク」の報告によると、2011年3月~2022年9月に確認できた殺された民間人は約23万人。このうち20万人以上をアサド政権とその協力者であるイラン民兵が殺害した。

約23万人のうち拷問を受けて殺されたのは1万4700人。この98.5%に当たる1万4475人がアサド政権(政府軍)によるものとされる。不当拘束や強制失踪の関与も多い。

「IS(イスラム国)は非情に残虐だという報道をされるが、比率でいうと圧倒的にアサド政権が多くの人を殺している」(黒井さん)

残虐なアサド政権に苦しめられてきたスラージュさんは、こう強く訴える。

「自分たち(アサド政権)が人道危機を引き起こしておいて、(災害時に他国の金で)人道支援を配るというのは歪んでいる」

スラージュさんがアサド政権からの支援を拒むのは、アサド政権が国連からの支援金や物資を横領しているのも理由だ。

黒井さんはこう話す。

「アサド政権は国連の機関に(シリア国内で)自由に行動させない。支援活動を直接見せないことで物資を軍に分配したり、支援金をピンハネする。イドリブ(シリア北西部の街)への空爆に使ったりしているかもしれない」

「国際支援団体がアサド政権の支配する地域に入って、支援物資を被災者に直接手渡しするならいい。だがアサド政権を通して支援するのはおかしい」(スラージュさん)

子どもたちに支援物資を届けるスラージュさん。「2週間経った今も子どもたちの前では笑えない」と話す(写真提供:NPO法人Stand with Syria Japan)

子どもたちに支援物資を届けるスラージュさん。「2週間経った今も子どもたちの前では笑えない」と話す(写真提供:NPO法人Stand with Syria Japan)

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