オーガニックコットン栽培をインドで普及させるプロジェクトがあった! 目指すは綿花農家の自殺をなくすこと

インドの綿花畑で働く人たちと葛西氏(左端)。畑でとれた綿を持つ(写真提供:PBP COTTON 葛西龍也氏)インドの綿花畑で働く人たちと葛西氏(左端)。畑でとれた綿を持つ(写真提供:PBP COTTON 葛西龍也氏)

「自分のやっている仕事(洋服や生活雑貨のカタログ通信販売)の延長線上でインドの綿花農家が自殺している」。この衝撃の事実を知ってしまったと話すのは、普段はカタログ通販会社フェリシモに勤め、2017年から一般財団法人PBP COTTONで代表理事を務める葛西龍也氏だ。自殺を減らすため、綿花の有機栽培をインド中東部に普及させ、インド産のオーガニックコットンを使った商品を日本で売るプロジェクトを立ち上げた。

1万5000世帯が有機に転換

プロジェクトの名称は「ピース・バイ・ピース・コットンプロジェクト(PBPコットンプロジェクト)」。葛西氏ら3人がリーダーとなり、勤務先のフェリシモで2008年に始まった。

プロジェクトの内容はこうだ。100%のインド産オーガニックコットン(有機栽培された綿花)で作ったTシャツ、ワンピース、スカートなどに、1着あたり100~300円の「基金」(寄付金)を付けて売る。このお金を元手に、主に3つの軸でインドの貧しい綿花農家を支援する。有機農法への転換、農家の子どもが働かなくて済むようにすること、奨学金の支給をはじめとする子どもの就学・復学サポートだ。

2020年3月時点で積み上がった基金の合計は1億1444万491円。PBPコットンプロジェクトの支援を受け、有機農法に転換した農家は1万5079世帯。復学した子どもの数は2064人。高等教育(大学)奨学金の給付を受けた子どもは928人にのぼる。

基金をどの農家への支援に使うかを決めるのは、インドの農民組合チェトナ・オーガニック。インド中東部のオリッサ州とテランガナ州に拠点を置く。

葛西氏は「チェトナ・オーガニックを通した支援(有機農法への転換、子どもの就学サポートなど)はオリッサ州とテランガナ州の農民が対象だ。だがPBPコットンプロジェクトでは、インド各地で収穫された綿が集まる市場から綿を買う。結果的にインド全土の綿花農家への支援にもなっている」と説明する。

綿花農家が自殺する原因には、栽培に必要な農薬や化学肥料、遺伝子組み換え綿花(GMコットン)の種を買うためなどにお金を借り、返済できなくなることがある。葛西氏によれば、インドの綿花農家が自殺する数は年間およそ3万人。そこで葛西氏は、有機農法が広まれば自殺者の数は減ると考えたのだ。

日本に住む葛西氏は年に1回のペースでインドに通う。10月の綿花収穫期が終わった12、1月ごろにオリッサ州とテランガナ州を訪れ、農家の課題についてヒアリングしたり、子どもたちの奨学金を渡したりするという。

他社もプロジェクトに参加!

PBPコットンプロジェクトに消費者が参加できる方法のひとつは、ファッション通販ブランド「haco!」や、フェリシモのファッションブランドである「リブインコンフォート」を通してPBPコットンプロジェクトの服を買うことだ。

PBPコットンプロジェクトはまた、日本の消費者とインドの綿農家が交流できるスマートフォン向けアプリを開発中だ。リリースは4月上旬〜下旬となる予定。商品を買えるのはもちろん、自分が寄付したい農家へ直接寄付できる。将来的には、消費者が綿花畑を見ながらインドの農民と英語で会話できるようにアップデートする。

「自分の着る服を作る裏で、人が死んでいる可能性があることを知ってほしい。そうした消費者が増えれば、求めるものも変わってくる。アパレル業界もついていく」(葛西氏)

葛西氏ら率いるこのPBPプロジェクトはもともと、フェリシモ1社のプロジェクトだった。だが発足10年目の2017年、フェリシモから独立して一般財団法人を設立。法人会員となった他社もPBPコットンプロジェクトの認証が付いた洋服を生産・販売できるようにした。

現在の法人会員は6社。繊維商社の豊島(名古屋市中区)、ヤギ(大阪市中央区)などが名を連ねる。

「フェリシモだけで使う綿の量には限界がある。アパレル業界全体からみればほんの一部。PBPコットンプロジェクトを立ち上げた当初から、より多くの人に参加してもらうためにはこの構想をオープンにしていくべきだと思っていた」と葛西氏は言う。

財団の運営に携わるメンバーは全員ボランティアだ。普段はアパレル業界や国際協力機構(JICA)などで働いている。一般財団法人PBP COTTONの理事で、JICAインド事務所元次長の山田浩司氏はPBPコットンプロジェクトについてこう語る。

「JICAのプロジェクトには期間が必ずある。政府間の協力ではカネの切れ目が縁の切れ目。ビジネスとして企業がかかわることで、JICAが支援するよりも長く続くことに期待している」

葛西氏は2021年2月、「セルフ・デベロップメント・ゴールズ SDGs時代のしあわせコットン物語」(双葉社、2021年2月、1600円+税)を出版。本の印税はすべてインドの綿農家への寄付に回す。

綿を収穫する女性たち(写真提供:PBP COTTON 葛西龍也氏)

綿を収穫する女性たち(写真提供:PBP COTTON 葛西龍也氏)

PBPコットンプロジェクトによる支援で復学した子どもたち(写真提供:PBP COTTON 葛西龍也氏)

PBPコットンプロジェクトによる支援で復学した子どもたち(写真提供:PBP COTTON 葛西龍也氏)