タイの価値観に触れてうつを克服した中山迅一さん、500円の日本語教室が国際交流のハブに

NPO法人「まなびと」の中山迅一代表。改装中のまなびとの施設で撮影(神戸市)NPO法人「まなびと」の中山迅一代表。改装中のまなびとの施設で撮影(神戸市)

「さみちい」

タイから日本に帰国後、外国人とどうにかして接点をもてないかと考えていた中山さん。そんな中、日本で働くベトナム人の友人から1通のメッセージが届く。

「日本語を教えてほしい。日本人の友だちがいない。さみちい」

彼女の名前はアイさん。おばを頼って日本で働きにきた。一日中、靴を段ボールに詰める仕事をしていた。おばの家と工場を往復する毎日。信頼できる人といえば、同郷のベトナム人だけ。アイさんは来日して3年になるのに日本語が十分に話せないでいた。

中山さんはすぐさまアイさんと連絡をとった。中山さん、アイさん、中山さんの友人の3人で日本語を話す機会を作った。アイさんは気心が知れた中山さんに、日頃の寂しさや職場での不満など、あふれんばかりの思いを日本語で話した。日本人と本音で会話をすることで、さみしさが少しずつ和らいでいった。

「日本に住む外国人は日本人とのつながりを求めている。日本語は、外国人と日本人をつなぐツールとなる」。こう確信した中山さんは2014年、まなびとで本格的に日本語教室を開始した。

中山さんの日本語教室の噂はすぐに、外国人コミュニティーの中で広まっていく。まなびとのインターン生として働いていた女子大生も、大学の友だちを連れて日本語教師として参加するようになった。

仲良くなった外国人生徒と日本人教師の交流は日本語教室の枠にとどまらない。新型コロナウイルスが蔓延する前は、教師と生徒が一緒になって、出身国の料理をふるまうパーティーや運動会といったイベントをよく開いていた。

中山さんによると、日本語教室の居心地の良さから、外国人労働者が日本の滞在を延長したり、留学生が神戸で仕事を探したりするようになったという。

新型コロナの影響で、日本語教室の生徒の数は20人から10人に半減した。だがまなびとの評判は高く、外国人や日本人から「日本語を学びたい」「国際交流をしたい」といった要望が毎月寄せられるという。中山さんは2020年から、オンラインでも日本語教室を開始。現在は50人の生徒が参加する。

中山さんは今、3階建ての一軒家を借り、改築しようと動いている。2階と3階は学童保育と日本語教室のスペース。1階にはボルダリングの壁やバーカウンターを作って、地域の憩いの場としても利用する予定だ。

改築の資金を得るため5月にクラウドファンディングも開始。2週間もしないうちに目標の120万円に到達した。現在はネクストゴールに向けて寄付を呼びかける。

まなびとの新施設の1階。現在工事が進む

まなびとの新施設の1階。現在工事が進む

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