ケニアのLGBTQ+クラブに潜入してみた、そこで見たのは秘密・差別・ナンパ・友情・闘い‥‥   

ケニア・ナイロビのダウンタウンにある、LGBTQ+専用のクラブ「クラブLA」。店内では真っ赤な照明の下、踊り、歌い、抱き合うLGBTQ+たち。日ごろのストレスを発散するケニア・ナイロビのダウンタウンにある、LGBTQ+専用のクラブ「クラブLA」。店内では真っ赤な照明の下、踊り、歌い、抱き合うLGBTQ+たち。日ごろのストレスを発散する

「実は僕、ゲイなんです」

ケニアのナイロビで仲良くなった日本人に突然、こう打ち明けられた。私は「しめた」と思った。ケニアのLGBTQ+事情に興味があったからだ。

きっかけは、2019年に京都シネマで「ラフィキ:ふたりの夢」という映画を見たことだ。ケニアを舞台に、レズビアンの2人が恋に落ちていきながら、社会から弾圧されていくというストーリー。ケニアの性的マイノリティーがいかに社会的に虐げられているのかを表した作品だ。

この映画はケニアで撮影され、世界的にも高評価を受けた。にもかかわらず、ケニアでは放映禁止。ケニア国外でしか見られない。

そもそもケニアでは同性同士の性交は違法。2019年には高等裁判所が同性同士の性交を禁止する法律を「合憲」と判断したばかりだ。

ケニアはどこまでLGBTQ+に冷たい国なのか。この地で暮らすLGBTQ+の人たちはどんな思いで生活しているのか。興味は尽きなかった。

そう思っていた矢先の友人の告白だった。私は思わず彼に、ケニア人のLGBTQ+の友だちを紹介してほしいと頼み込んだ。

タイトパンツからすべすべの脚

LGBTQ+のケニア人らと日曜の昼過ぎ、ナイロビの高級住宅街に建つコンドミニアムで会うことになった。先に着いた私は30分ほど彼らを待つ。LGBTQ+でもアフリカンタイムは同じなんだなとしみじみ思いながら、少し頭をまとめた。

そもそもLGBTQ+とは何か。Lはレズビアン(女性の同性愛者)、Gはゲイ(男性の同性愛者)、Bはバイセクシャル(両性愛者)、Tはトンランスジェンダー(自認する性と生まれたときの性が異なる人)、Qはクィア(自分の性をラベリングしたくない人)やクエッショニング(自分の性が何かわからない人)をそれぞれ指す。これ以外にもさまざまな性のあり方があるので+がついている。

このカテゴライズの基礎となるのがSOGIという概念だ。SOは性的指向(Sexual Orientation)、GIは性自認(Gender Identity)。つまり自分をどんな性別と認識し、どの性別が好きかということ。これはすべての人に対応する言葉で、性は多様なんだということの裏返し。最近は、性表現(Expression)や生物学的な性(Sexual Characteristic)を踏まえてSOGIESCとも呼ばれる。

そんなことを考えているうちに、話が聞ける5人がきらびやかに登場した。ゲイのロミオ、ジョニー・ウォーカー、ケファ。レズビアンのモーガンとルビーだ。きらびやかと書いたのはゲイ3人の出で立ちからだ。

短いタイトパンツから、すね毛を剃ったすべすべの脚が伸びる。唇は光り輝き、肌にはほんのりと化粧が施されていた。なにより3人とも小ぎれい。ケニアに入ってからずっとスラムに通っていた私は、3人の装いに目を奪われた。

ひげ面に化粧するのが好き

彼らを見てフラッシュバックしたのがタイのレディボーイだ。私はかつて2年ほど、“LGBTQ+天国”のタイに住んでいた。この世のものとは思えない美しいトランスジェンダー(レディボーイ)を何人も見てきたのだ。ゲイ3人の美しさや仕草はタイで見たレディボーイを彷彿とさせる。自分を女性と自認しなければここまで美しく手入れできないのではないか。

「あなたはゲイではなく、トランスジェンダーではないのか」。私は率直に聞いてみた。すると3人は口をそろえて自分はゲイだと言う。性自認はあくまで男だと。だがそのあとの答えが興味深かった。

「私はゲイだけどボトムなの」

「私はバーサタイル」

ボトム? バーサタイル?

彼らの話によると、ゲイの中にもいろいろな役回り(性行為だけではない)があるという。ゲイ同士のカップルで男役をするのがトップ、女役をするのがボトム、どっちにもなれる人をバーサタイルというそうだ。また相手によって自分の役割も変わるし、役割が同じでも構わない。

ケファは言う。「男っぽい服も女っぽい服も好き。気分によって着る服を変える」。この言葉にロミオも同調する。「私はひげを生やしながら化粧するのが好き」

この両性性はレズビアンにも当てはまる。男らしいレズビアンをスタッド、女らしいレズビアンをフェミー、どちらにもなれるレズビアンをステムというらしい。ブカブカのTシャツを着て、バギーパンツをはいたモーガンはスタッド、胸元の開いた服を着こなすルビーはフェミー、2人はカップルだ。

ゲイやレズビアンの中でもいろんな立ち位置があり、相手やタイミングによってその役回りも変わる。まさに変幻自在。グラデーションといわれるように、ゲイ、レズビアンと一言でいっても多様で微妙な形がある。誰かが昔言っていた「性とはスペクトラム」。この言葉をケニアで実感した。

ひげを生やしながら口紅を塗るロミオ

ひげを生やしながら口紅を塗るロミオ

すね毛を剃ったすべすべのケファの長い脚

すね毛を剃ったすべすべのケファの長い脚

ケファの足にはペディキュアも

ケファの足にはペディキュアも

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