在中国日系企業の人事管理を支援するコチコンサルティング(上海)は4月28日、「新型コロナ防疫措置下の在中日系企業の現状と課題」と題するウェビナーを開催した。同社が上海、揚子江周辺、華北の3つの地域に進出した日系企業355社を対象に4月20~21日に緊急アンケートを実施したためだ。
回答によれば、ロックダウンが長期化する上海の企業が挙げる悪影響は大きく3つある。「事業計画や収支計画の変更」「原材料の調達難による生産計画の変更」「資金繰り(キャッシュフローの悪化)の難しさ」だ。
抗原検査とPCR検査を毎日
アンケートに答えた355社の中で上海にある企業は231社。うち製造業は43社、非製造業は188社だ。この72.1%(31社)、59.6%(112社)が事業計画や収支計画を、76.7%(33社)、29.3%(55社)が生産計画を変更した。また資金繰りに頭を悩ませる企業は製造業の20%、非製造業の22%と過去にないレベルにのぼったという。
こうした経営難に直面する企業に必要なのが、ロックダウンで操業停止した工場の早期再開だ。上海の製造業を中心にいま広がるのが、コロナ禍の前にはなかった「クローズドループ方式」。これに沿った操業再開を中国では「封鎖操業」と呼ぶ。
クローズドループ方式は、2021年の東京五輪や2022年の北京五輪の大会運営で導入された、選手や大会関係者と外部との接触を遮断する「バブル方式」に近い。
たとえば、従業員が工場の敷地から外へ出る場合は、目的地への直行直帰が原則で、公共交通機関の使用も禁止される。従業員はまた、朝に抗原検査、夜にPCR検査を毎日受けなければならない。検査結果を含めて、従業員の健康状態やワクチン接種状況を担当者がモニタリングするという徹底ぶりだ。
従業員ではない外部の人間が工場の敷地に入る場合は、48時間以内のPCR検査証明と敷地内での抗原検査の陰性証明が必要だ。自社のドライバーでさえ、これら2つの証明を保持する条件が課せられるという。
工場に泊まり込み
上海でいち早く操業再開した企業は、上海市経済信息化委員会が中国の国益を重視して選んだ666社。ホワイトリスト第1弾として4月11日に公開された。リストで最多の4割近くを占めたのは、米テスラや大手の欧米資本と合弁する上海汽車集団をはじめとする自動車や自動車部品メーカーだという。
リストに入った大手医薬品メーカーの担当者は「(工場での作業を)最少の23人でこなしてきたが、(操業再開にあわせて)50人増員する。合計73人になる」と話す。4月29日から、従業員の安全第一に留意して工場を再開させた。
この担当者によると、短期集中で操業再開に注力するため、自宅に帰らず工場に寝泊まりした従業員も少なくない。ロックダウンの長期化に備えて3月ごろから、従業員用の布団や寝袋、食料品などを大量に買い込んでいたという。
これについてコチコンサルティング(上海)の伊奈悟副社長は「今の日本だと、布団や食料を準備して泊まり込みで働くことは風潮に合わないのかもしれない。ただコロナ禍で広まった、仕事を家庭に持ち込む『在宅ワーク』もいかがなものかと思う。中国人的な働き方もありなのかもしれない」と話す。
ちなみに5月3日にはホワイトリスト第2弾として製造業1188社が加わった。操業再開率は、90%を超えた第1弾とあわせて70%以上。貿易企業のホワイトリスト第1弾も同時に発表され、物流は日本通運や近畿日本鉄道、半導体はロームやソニー電子、商社は伊藤忠商事や豊田通商など142社が入った。