ミャンマー民主化運動を支えるソーシャルビジネス、ヤンゴン在住ミャンマー女性が立ち上げたわけ

年配のミャンマー人女性が手編みした一点もののコットンバッグ。ひとつひとに「民主化」への思いを込め、作ったという。収益の3割が「CDM」(クーデターを起こしたミャンマー国軍に対して、公務員などが職務をボイコットして抵抗する市民不服従運動)の参加者への寄付となる年配のミャンマー人女性が手編みしたカラフルなコットンバッグ。すべて一点もの。ひとつひとつに「民主化」への思いを込めて作ったという。収益の3割が「CDM」(クーデターを起こしたミャンマー国軍に対して、公務員などが職務をボイコットして抵抗する市民不服従運動)の参加者への寄付となる

年配のミャンマー人を助けたい

――コットンバッグを作るのにどれぐらいの時間がかかりますか。

「33個のコットンバッグは2人で作り、およそ2カ月かかりました。手編みできれいに仕上げるのは丁寧な作業が欠かせません。熟練のスキルが必要になるため、若者だと作るのはなかなか難しいです。

これは逆に言うと、危機のさなか立場が弱い年配の女性を(仕事を与えることで)助けることにつながります。ミャンマーの女性たちがもつ熟練のスキルを生かし、いろんな色を交錯させたデザインをぜひお楽しみください」

――バッグの作り手が手にする報酬はだいたいいくらですか。

「1個作るごとに約12ドル(約1600円)を払っています。1人で17個作れば合計約204ドル(約2万7000円)の収入になります。CDMで仕事を失った人にとってはものすごく助かる金額。1カ月の生活費は十分まかなえます。

この人件費とは別に、コットンバッグ(全商品)の収益の3割を別のCDM参加者に寄付しています。国軍に奪われた民主主義を取り戻すために頑張っている人を少しでも生活面で助けたい。これが私たちミャンマー人の気持ちなのです」

伝統的な蓮産業を絶えさせない!

――コットンバッグだけでなく、蓮のストールも売っていますよね。どんな意図がありますか。

「ミャンマーにとって蓮の繊維から作るさまざまなものはまさに伝統です。

ミャンマー屈指の観光地でもあるインレー湖(シャン州)には蓮が自生しています。またミャンマー中部のザガインには、ロータスファーム(蓮を商業的に栽培するファーム)がたくさんあります。これらの蓮を収穫し、伝統的な機械で織った蓮の商品は外国人観光客の間でも人気。蓮産業の中心地であるインレー湖もかつては外国人でにぎわっていました。

ところが2020年の3月末ぐらいからの新型コロナウイルスのまん延で、インレー湖のマーケットは閉鎖。これに追い打ちをかけたのが2021年2月1日に起きた軍事クーデターです」

――蓮産業はどうなってしまうのでしょうか。

「蓮産業にかかわる人たちの生活も大変。ですが、ミャンマーの伝統である蓮産業もこのままだとピンチです。これは政治とはまったく無関係の話。なんとしてもミャンマーの伝統を残したい。

ミャンマー以外の世界はすでに、“ウィズ・コロナ”で経済活動が戻りつつあります。ところがこの国には当面、外国人観光客が帰ってきそうにありません。蓮産業と蓮産業にかかわる人たちのために何かできることはないか。そう思って、蓮の商品もラインアップに加えました」

――具体的にどんな商品を売っていますか。

「ひとつは蓮100%のストールです。蓮100%の商品は世界的にも珍しいため、これは現地で買っても高価(サイズにもよりますが1万6000円前後はします)。インレー湖をいつかは実際に訪れてほしい気持ちはありますが、外国人にとっていまのミャンマーは“遠い国”。

ならば日本にいながら、ミャンマーの伝統的な蓮のストールを手にして、ミャンマーの人たちに寄り添ってもらえると嬉しいです。蓮のストールはいまや、ほぼ手に入らないのではないでしょうか。

もうひとつは帽子です。表地が蓮の、裏地がコットンの布という作り。リバーシブルですので、その日の気分によって2通りのパターンを楽しめますよね。登山が趣味の方はもちろん、街歩きでもおしゃれなアイテムになります。こちらも他のショップではおそらく売っていません」

――最後に、ミャンマーのいまの状況を教えてください。

「多くのミャンマー人にとって、日々の暮らしは厳しさを増すばかりです。クーデターが起きてから、チャット(ミャンマーの通貨)は下落し続け、日用品の値段は上がり続けています。運良く仕事にありつけても、収入が半分以下に下がったミャンマー人も少なくありません」

蓮100%のストール。伝統的な折り機で作ったレアな商品

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