タイからミャンマーへの半分超が密輸入、貿易商「手数料はミャンマー国軍に流れている」

タイのメーソットにあるゲート13と呼ばれる船着場。セメント袋を積んだトラックが列をなし、国境を流れるモエイ川には物資を運ぶボートが停泊する。ミャンマーの岸はすぐそこだタイのメーソットにあるゲート13と呼ばれる船着場。セメント袋を積んだトラックが列をなし、国境を流れるモエイ川には物資を運ぶボートが停泊する。ミャンマーの岸はすぐそこだ

注文は3分の1に

タイからミャンマーへの密輸入は、2年前に軍事クーデターが起きる前からあった。だがクーデターを機に国軍とKNUの対立が激しくなるにつれて、国軍にとってBGFの重要度は高まった。BGFはそれを逆手にとってか、密輸入の手数料を3倍に上げたという。

クーデター以降、ミャンマーの通貨チャットは1ドル1300チャットから2100チャットに急落した。またミャンマー国内で荷物を運ぶ際は、いくつもある国軍のチェックポイントでお金をせびられる。そこに密輸入の手数料が加わると、タイから輸入した商品の末端価格は跳ね上がる。

「俺はクーデター前と同じ値段で家具を輸出している。だが今ミャンマーの顧客に届くときは、値段はかつての2倍になっている」(アコさん)

価格が高騰すれば売れ行きは落ちてしまう。この影響をダイレクトに受けるのは、家具のように生活に直結しないものを売るアコさんのような貿易商だ。

「今年(2022年)に入って注文が激減した。1年前は1カ月に1つのコンテナをミャンマーに送っていたが、今は3カ月に1つしか送れない」

だけど俺には家族もいる

アコさんが苦しむのは、もうけが激減したからだけではない。自分のビジネスがミャンマー人を苦しめるBGFの活動資金になっていることだ。

アコさんが売る家具も、密輸入のルートでミャンマーへ運ばれる。その際に手数料はBGFの懐に入る。

「BGFになんて協力したくない。だけど俺には家族もいる。働かないわけにはいかない。どうしようもないんだ」

アコさんはこう唇をかむ。

ミャンマーを離れて20年近くになるアコさんだが、祖国への思いは人一倍強い。2021年末にミャンマーから難民が国境に押し寄せたときは、ピックアップトラックに食べ物や服などを詰め込んで、タイ側の難民キャンプに運んだ。

だからこそ愛する祖国を崩壊させた国軍や、それに加担するBGFを憎んでいる。

「あいつらは盗人だ。一般市民のことなんかこれっぽっちも気にしてはいない」

荷物はクレーンでボートに載せられる。奥に見えるのは中国資本のカジノ。国境警備隊(BGF)はカジノの土地の賃料も徴収するといわれる

荷物はクレーンでボートに載せられる。奥に見えるのは中国資本のカジノ。国境警備隊(BGF)はカジノの土地の賃料も徴収するといわれる

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