ブードゥー教の最高指導者は伝統医療の担い手だった! お金なくても診てもらえる「庶民の味方」

ブードゥー教のシェフであるエケ・アドトビ・メソヌーさん。幼いころから“ブードゥーパワー”をもっていたという。いまは、薬草の作り方を教える8人の見習い(弟子)をもつ。期間は2~3年。卒業する見習いは5万CFAフラン(約1万円)とお酒(ソダビ、ジンなど)をお礼としてシェフに渡すというブードゥー教のシェフであるエケ・アドトビ・メソヌーさん。幼いころから“ブードゥーパワー”をもっていたという。いまは、薬草の作り方を教える8人の見習い(弟子)をもつ。修行期間は2~3年。卒業する見習いは5万CFAフラン(約1万円)とお酒(ソダビ、ジンなど)をお礼としてシェフに渡すという。写真手前の置物はお祈りの際に使う像

西アフリカのベナンはブードゥー教発祥の地だ。ブードゥー教の最高指導者をベナンでは「シェフ」(英語で「チーフ」の意)と呼ぶ。シェフの最大の役割は、数多の薬草を使って伝統的な薬を作り、処方すること。診察料や治療費は基本かからないので、とりわけ貧しい村人にとっては救世主のような存在だ。

薬草のプロ

ベナン南西部のクッフォ県。アジャ人が暮らすこの一帯はベナンの中でもとくにブードゥー教が生活に根付くエリアとされる。

クッフォ県で最も高い地位にあるシェフを務めるのは、同県トタ村在住のエケ・アドトビ・メソヌーさんだ。70歳。40歳のときにシェフに任命され、シェフ歴30年のベテランだ。

彼のもとには毎日、老若男女問わず10人以上の患者がやってくる。症状は腹痛、吐き気、骨の痛み、立ちくらみ、マラリアなどさまざま。患者のようすを見て、シェフはどんな薬が効くかを見極める。診察後、「この薬草とこの薬草をマルシェ(市場)で買ってきて」と患者に伝える。

患者は今度は薬草を手に再びシェフのところへ。シェフはそれらをもとに薬を調合する。やり方は、薬草をお湯と一緒に煮込んだり、絞ったり、煙であぶったり‥‥。飲み薬からクリームまである。

シェフは手術はしないが、歩けない人が歩けるようになった例もあるという。「薬草の作り方は父から教わった」とシェフ。ただ父はシェフではなかったという。

お礼はお酒

村人がシェフにかかる最大の理由は安いからだ。

マラリアを例にとると、治療のための点滴を病院で受ければ4万~5万CFAフラン(8000~1万円)はする。だがシェフのもとにかかれば、そういったお金は不要。薬草を買うだけ。伝統的な薬の調合はシェフがやってくれる。

基本はすべて無料。だが治ってから、シェフのところにお礼に行く患者もいる。その際に謝礼を少し渡したり、ソダビ(ヤシを原料とするベナンを代表する蒸留酒)などを贈ったりすることもあるという。

村人のひとりは「シェフのところに行くのはお金がない村人が多い。病院だとお金がなければ診てもらえないから。また私たち村人にとってシェフは信頼の対象でもある」と説明する。

ただ病気によっては臨床検査が必要だ。病院と違い、シェフは検査できない。この場合、まずは病院で検査し、その結果を持ってシェフのところに行き、伝統的な薬を作ってもらう。

「シェフと病院はつながっている。これがベナンの農村の医療スタイル」と村人は口をそろえる。

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