ブードゥー教の最高指導者は伝統医療の担い手だった! お金なくても診てもらえる「庶民の味方」

ブードゥー教のシェフであるエケ・アドトビ・メソヌーさん。幼いころから“ブードゥーパワー”をもっていたという。いまは、薬草の作り方を教える8人の見習い(弟子)をもつ。期間は2~3年。卒業する見習いは5万CFAフラン(約1万円)とお酒(ソダビ、ジンなど)をお礼としてシェフに渡すというブードゥー教のシェフであるエケ・アドトビ・メソヌーさん。幼いころから“ブードゥーパワー”をもっていたという。いまは、薬草の作り方を教える8人の見習い(弟子)をもつ。修行期間は2~3年。卒業する見習いは5万CFAフラン(約1万円)とお酒(ソダビ、ジンなど)をお礼としてシェフに渡すという。写真手前の置物はお祈りの際に使う像

心の拠り所

シェフの役割は、伝統的な医療の担い手だけではない。ベナン人にとって心の拠り所にもなっている。

多民族国家であるベナンには、最も多いフォン人でも全体の4割以下。アジャ人、ヨルバ人、バリバ人などおよそ50の民族が住む。言語もアイデンティティもバラバラ。こうしたなか、ブードゥー教は異なる民族をベナン人としてまとめあげる役割も果たしている。

ベナンでは毎年1月10日、ブードゥー教最大の精霊祭「エグングン」が全土で開かれる。太鼓にあわせて激しく踊り、酒を飲むイベントだ。ブードゥー教の聖地で、またかつての奴隷貿易の拠点しても知られるアトランティック県ウィダーでの祭りが有名だが、この日はベナン全土でベナンすべての民族が盛り上がる。

またトタ村では毎年12月15~20日も、シェフの家で大きな祭りを開く。ベナンのさまざまな場所からブードゥー教徒はもちろん、カトリック教会の神父もやってくるという。

祭りやセレモニーのときに食べるブードゥー料理もある。塩ゆでした鶏肉、残ったゆで汁を使った「パット・ブラン」(白いパット=トウモロコシの粉を熱湯に入れてこねたもの)、「アリコ・ルージュ」(ゆでた豆に赤いパームオイルをかけたもの)などだ。

さらにブードゥー音楽もある。ベナンで最も高い人気を集めるのは「フレ・ゲデンゲ(Frere Guedehoungue)」という4人グループだ。サフエ人がサフエ語で歌う。アジャ人のグループでは「バデ・クレマ(Gbade Clement)」が有名だ。

フランスに植民地支配される前、この地に現在のベナンに相当するエリアを統治する王国はなかった。多民族国家のベナンでは、話す言葉も食べ物もアイデンティティも民族ごとに異なる。異文化を乗り越え、ベナンをベナンたらしめるのがブードゥー教。そのリーダーがシェフだ。

トタ村出身のベナン人で、ナイジェリアで7年出稼ぎしたこともある青年ゼベ・ライウィリスさんは「ブードゥー教はベナン人にとって大きな誇りだ」と胸を張る。

トタ村のシェフの家で開催されたブードゥー教の祭り。太鼓にあわせて激しく腰をくねらす女性たち。トランス状態に陥り、暴力を振るいだす参加者もいた

トタ村のシェフの家で開催されたブードゥー教の祭り。太鼓にあわせて激しく腰をくねらす女性たち。トランス状態に陥り、暴力を振るいだす参加者もいた

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