【環境と開発の接点(11)】テーブルマウンテン、エンジェルの滝‥‥、エコツーリズムで人生が一変した先住民~「金の採掘者」から「ガイド」になった!~

2007.11.01コナン・ドイルの小説「ザ・ロスト・ワールド(失われた世界)」の舞台になったのが、ベネズエラ、ブラジル、ガイアナの3国にまたがる「ギアナ高地」。その一部、ベネズエラ側は「カナイマ国立公園」(面積およそ3万平方キロメートル=関東地方よりちょっと小さい)として、ユネスコの世界遺産(自然遺産)に登録されている。世界最後の秘境ともいわれる場所。「テーブルマウンテン」と呼ばれる頂上が平らな山が点在している。カナイマ国立公園内最高峰のテーブルマウンテンが「ロライマ」(頂上面積およそ34平方キロメートル、標高2810メートル)。世界一の落差(979メートル)をもつエンジェルフォールはこの公園内の別のテーブルマウンテン「アウヤンテプイ」にある。写真はロライマから望む日の出

環境破壊の要因のひとつが「貧しさ」だ。カネがないから人々は森を焼き、金を掘り、野生動物を食べ尽くす。それに歯止めを掛けるには仕事が要る。代表的なサステナビリティー産業「エコツーリズム」を通して、ベネズエラの先住民(インディヘナ)の暮らしがどう変わったのかを紹介したい。

■月に6万円以上! 収入が安定して喜ぶインディヘナ

「仕事はハードだけど、『ロライマ』のおかげで食べていける。ラッキーだね」

ロライマとは、ベネズエラが誇る世界遺産「カナイマ国立公園」に点在するテーブルマウンテンのひとつ。ふもとから頂上に行って帰ってくる5泊6日のトレッキングツアー(アップダウンが続く道を合計40キロメートル以上歩く)が有名で、年間およそ3000人(1日最大50人の入山制限がある)が参加するという。

冒頭のコメントは、ロライマのトレッキングガイド、エリオ・ロバートソンさん(26歳)のもの。「ガイドの仕事はどう?」と私が尋ねたときの答えだ。

エリオさんはペモン族(インディヘナの種族のひとつ)出身。ガイドは3年やっている。その前は1年だけポーターとして働いた。月に2回のペースでロライマに登り、1回のツアー(6日分)で約3万円(オフィシャルレートで換算。ポーターだと約2万円)もらえるという。月収は6万円プラス客からのチップ。ガイドやポーターのほとんどは、この一帯に多く住むペモン族だ。

エリオさんの前職は金やダイヤモンドの採掘だった。カナイマ国立公園やその周りにはたくさんの鉱物が地中に眠っている。それを目当てにベネズエラやガイアナを転々とし、「ここだ!」と思った場所を掘る。金が出ればそれを売り、なればまた次を探す、という暮らしを何年もしていた。

「採掘の仕事は運次第。ラッキーだったらカネも稼げるけれど、アンラッキーだと収入はゼロ。最初はちょっと良かった。でもだんだん外れるようになって‥‥。そんなころ『ポーターの仕事をやらないか』と誘われ、そんな暮らしに見切りを付けた」

実はこのエリオさん、国籍はベネズエラではない。ガイアナ人だ。植民地支配の名残でペモン族はベネズエラ、ガイアナ、ブラジルの3カ国にまたがって分布しているが、インディヘナの特権としてパスポートなしで国境を自由に行き来することができる。ガイアナは旧イギリス領のため、いまでも英語圏。つまりエリオさんはかなり英語がうまい。ツアー客(その大半は外国人)のガイドにはうってつけなのだ。

金の採掘はまず森林を伐採し、水圧で地面を崩し、流れ出た砂を籠ですくっていく。分別には水銀を使う。環境を破壊する典型的な産業のひとつだ。そのてんエコツーリズムは、それを阻止すると同時に、雇用機会も増やす。エリオさんが採掘業からガイドに転じたように、労働者にとっては安定した収入を、この地域にとっては環境保全をもたらす、という一石二鳥の産業なのだ。

ロライマのメディアへの露出が世界的に増えていることも手伝って、登山客の数は右上がり。最近になってエリオさん(三男)の兄シルベスターさん(31歳、長男)も金の商売から足を洗い、ポーターになった。ロバートソン家ではかねてから二男もガイド兼旅行会社の事務として働いている。

■ガイド20人が集まってロライマを清掃登山!

ロライマトレッキングにはいくつかの規則がある。植物や動物、鉱物などを持ち去るのを禁止しているのはもちろん、すべてのごみは持ち帰らなければならない。ガイドやポーターいわく、「うんちも持って帰る。じゃないと土に栄養を与えてしまい、植生が変わるでしょ」。

とはいえロライマ登山はけっこうハード。テントから寝袋、マット、6日分の食料、調理器具、燃料、便器まで持っていく。とても個人ですべて持って歩けないので、ポーターが当然付く。彼らは数十キログラムの荷物を背負っている。坂はきつい。だから本当に全員分(私が参加したときは客7人、ガイド・ポーター4人の計11人が一緒に行動した)のうんちを持って歩き続けているのかはちょっと疑問だが。

山頂の最低気温は東京の冬並み。寒いし、雨も降るし、荷物は重いし、昼は日差しが強いし、水浴びができない日もあるし、それになにより疲れているし、面倒臭くなるのだろう、ごみをポイ捨てする人もちらほらいる。とりわけキャンプ地やその周りには小麦粉やクッキー、インスタントジュース、コーヒーやせっけんなどの袋、缶詰やビールの空き缶、靴下、鍋のふた、電池、ビニール袋、ペットボトル、ティッシュペーパー、パンツまでなんでも落ちている。

ただその量は想像より少なかった。世界中を回っている旅行者らも「意外ときれいだね」と満足げ。ごみの中をトレッキングしたくないし、テーブルマウンテンの上はごみの山だった、ではしゃれにもならない。

「なんでごみが少ないの?」とエリオさんに尋ねてみた。

「実は1年に1回ぐらい、清掃登山をやっているんだ。こないだもガイド20人ぐらいが集まって、ロライマのごみを拾った」

「えーすごいね。どれぐらいのごみを持ち帰ったの?」

「100キロは超えたね」

「へえ。でも誰が主催したの?」

「カナイマ国立公園の事務局だよ」

ごみのポイ捨てが「当たり前」のベネズエラで、ガイドたちが清掃登山をする。エベレストのように命がけではないが、しんどさは並大抵ではない。ここにエコツーリズムのあり方を垣間見た気がした。

■環境問題で暴動を起きたマリパ、エコツーリズムは救世主?!

ここで話を、私が暮らすマリパ(カナイマ国立公園と同じ州で、カウラ川のほとりにある村)に変えよう。この辺りもすごい勢いで自然が失われている。なにしろカウラ川流域だけで年間160平方キロメートルの森林が消えていくのだ。これは霞ヶ浦の面積(168平方キロメートル)にほぼ匹敵する。

理由は単純明快。木を切って売ったり、森を焼いてその後に牧場や畑を作ったりするからだ。その根底にあるのが、いわゆる「貧困」。といってもアフリカのような「飢餓」を指すのではない。定収入がないため、自然を搾取して“生活の足し”にする。

人口わずか3000人のマリパで1年ちょっと前に暴動が起きた。その原因には環境問題が深く絡んでいた。

この村では漁業で生計を立てている人が少なくない。ところがカウラ川では数年前から、5~7月の禁漁期間(厳密には1人1日10キログラムの魚までとれる。ただ手間ひまを考えれば元は取れない)が設けられた。生息数が減りつつある魚を保護するためだが、補償もない漁師にとっては一大事だ。

彼らは挙ってカウラ川の上流に違法を承知で金を掘りに行った。それを政府が強硬に取り締まったため、行き場を失った人たちは怒り狂って市長(マリパはスクレ市)の家やクルマを焼き払ったのだ。

カウラ川流域には世界屈指の自然が残されている。アメリカ合衆国に本部を置く非政府組織「ワイルドライフ・コンサべーション・ソサエティー」(WCS)のスタッフで、観光学を大学で修めたアナ・カルバハルさん(21歳)は言う。

「カウラ川を抱き込むマリパがエコツーリズムの拠点になるチャンスはあると思う。大きな滝、インディヘナの暮らし、川でラフティングやスポーツフィッシングをやったっていいし」

エコツーリズムのすそ野は広い。ガイドやポーターだけの仕事が生まれるのではなく、ベースとなる町の宿、レストラン、バー、商店、交通手段なども繁盛していく。

ただそれらを実現するうえで欠かせないのは、その意識をみんなが共有し、それに向かって行動を起こすこと。そうした“気づき”も環境教育の領域に含まれるのだろう。恵まれた自然を食いつぶすのではなく、サステナブルな使い方を始めたとき、本当の意味でマリパに再び平和が訪れる。(続き