【チベット建築家・平子豊③】チベット様式の空き家を修復、ラダックの旧市街を復興させたい

チベット・ヘリテイジ・ファンドのアトリエ「クシュ・ハウス」の屋上で写真に映るチベット建築家の平子豊さん。後ろに見えるのはレー王宮(インド・ラダック)チベット・ヘリテイジ・ファンドのアトリエ「クシュ・ハウス」の屋上で写真に映るチベット建築家の平子豊さん。後ろに見えるのはレー王宮(インド・ラダック)

地価が10年で10倍に

そのために平子さんは家をただ修復するだけでなく、住みやすくするためにさまざまな工夫を凝らしてきた。

例えばトイレ。旧市街地は水の利用が限られ、下水道も通っていないため、トイレはくみ取り式だ。それでも平子さんは、昔のような床に穴の空いたトイレではなく、腰をかけられるタイプの西洋式の便座(木造)を設置する。利用者の使い勝手を良くすると同時に、衛生状態を改善するためだ。

「ライトウェル」と呼ばれる細い吹き抜けも、リビングやキッチンに設置した。内側の壁に張ったアルミとトレーシングペーパーが光を反射し、天窓の光が室内に入る仕組みだ。また、屋上の貯水タンクが冬場に凍らないよう、土とおがくずを混ぜた日干しレンガの土壁でタンクを覆ったりもしている。

平子さんは旧市街地のインフラ整備にも力を入れる。ラダックの行政組織「ラダック自治山間開発会議」と協力して、旧市街地の歩道の脇に排水溝を設置。また歩道には石の階段を作ったり、スレートで石畳を敷いたりした。

チベット・ヘリテイジ・ファンドの活動で、旧市街地の生活環境は劇的に良くなった。平子さんによると、旧市街地の土地と家の値段は10年前の10倍に、日本円にして1000万円ほどへと値上がりしたという。

「これまで(チベット・ヘリテイジ・ファンドと家のオーナーの)折半で修復の資金を出資していたが、早く直してほしいと全額を出すオーナーも出てきた。修復は現在、順番待ち。ラダック人(ラダック在住のチベット系民族)が歴史的建築物の価値を再認識し始めた証拠だ」

平子さんはこう手応えを語る。

チベット・ヘリテイジ・ファンドはラダックで活動を始めて以来、レーの旧市街地では40以上の古民家や寺院を、また中央アジア博物館の建設やラダック各地にある数々の寺院や宮殿などを修復してきた。

おがくずを混ぜた日干しレンガで作った貯水タンクのスペース。マイナス20度になる冬のレーでも、貯水タンクが凍らないよう工夫を凝らす

おがくずを混ぜた日干しレンガで作った貯水タンクのスペース。マイナス20度になる冬のレーでも、貯水タンクが凍らないよう工夫を凝らす

「ライトウェル」と呼ばれる小さな吹き抜け窓。ラダックの伝統的な家は屋内を暖かく保つため、窓は小さい。ライトウェルを設けることで、屋内は明るくなる

「ライトウェル」と呼ばれる小さな吹き抜け窓。ラダックの伝統的な家は屋内を暖かく保つため、窓は小さい。ライトウェルを設けることで、屋内は明るくなる

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