【チベット建築家・平子豊③】チベット様式の空き家を修復、ラダックの旧市街を復興させたい

チベット・ヘリテイジ・ファンドのアトリエ「クシュ・ハウス」の屋上で写真に映るチベット建築家の平子豊さん。後ろに見えるのはレー王宮(インド・ラダック)チベット・ヘリテイジ・ファンドのアトリエ「クシュ・ハウス」の屋上で写真に映るチベット建築家の平子豊さん。後ろに見えるのはレー王宮(インド・ラダック)

「チベットのあらゆる文化は今、滅亡の危機にある。歴史的な建築物を残して、チベット文化を守りたい」。こう話すのは、「チベット・ヘリテイジ・ファンド」の共同代表を務める建築家の平子豊さんだ。平子さんはインド北部にあるラダックの主都レーの旧市街地で、空き家になっていた古民家を人が住めるように修復。居住地区として再興させ、チベット様式の建築物を保全しようと力を入れる。(1回目はこちら

誰もいなくなった旧市街

「“生きた建物”を作って、できる限りチベット建築を残したい」

夕暮れに照らされるレーの旧市街地。この一角にあるチベット・ヘリテイジ・ファンドのアトリエの「クシュ・ハウス」で、平子さんはこう言い切った。

丘の上に立つレー王宮の裾に広がる旧市街地は水利が悪い。またラダックの人たちも旧市街地の歴史的な価値を認識していなかった。その結果、多くの住民が旧市街地の家や土地を売り払い、レーの近郊へと移ってしまった。平子さんがレーにやって来た当初、旧市街地は過去の栄華のみる影がないほど荒廃していたという。

平子さんの言う生きた建物とは、見た目だけが伝統的でカッコいいのではなく、快適にしかも長く住み続けられる家のこと。ラダックの人たちが旧市街で生活を営むようになれば、チベット様式の建築物は自然と残っていく。

「人間に例えるなら、家がからだで、住人が魂。人が住んで初めて、チベット建築の文化は継承できる。住居地区として旧市街地を再興させたい」(平子さん)

ラダックの主都レーの旧市街地。数十年前までは廃墟が広がっていたが、チベット・ヘリテイジ・ファンドの活動で、住民が少しずつ戻り始めた。土地と家の価格は急上昇中だ

ラダックの主都レーの旧市街地。数十年前までは廃墟が広がっていたが、チベット・ヘリテイジ・ファンドの活動で、住民が少しずつ戻り始めた。土地と家の価格は急上昇中だ

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