強い戦士になる!? マサイ族に残る「ヤギの睾丸を生で食べる」伝統

男性が手に持つ丸いものが「ヤギの睾丸」。これを生で半分に切り、食べる。「ケニア国内のほかの民族と比べてマサイ族の体は強い」といわれるのはこうした食生活が関係しているかもしれない(2022年7月22日、筆者撮影)男性が手に持つ丸いものが「ヤギの睾丸」。これを生で半分に切り、食べる。「ケニア国内のほかの民族と比べてマサイ族の体は強い」といわれるのはこうした食生活が関係しているかもしれない(2022年7月22日、筆者撮影)

子どもの誕生でウシ屠殺

これ以外にも残っているマサイ文化はある。生まれた子どもが女児であればヤギまたはヒツジを、男児の場合は雄ウシを屠殺することだ。

殺した動物の体からまず脂肪を取る。その脂肪を保存用に乾燥させておく。それを小さく砕き、スープや炒め物の油に使う。

ワンジャラさんによると、これは、出産を終えた母が脂肪を摂取し続けられるようにするため。母乳を作るためにも脂肪は必要な栄養だ。

「1体の動物でだいたい、(1人の産婦にとって)4カ月分の脂肪が取れるわ。昔も今も、冷蔵庫がないなかで生活するマサイ族の知恵なのよ」(ワンジャラさん)

穴のあいた耳たぶ、抜歯‥‥消えゆく文化

残る文化もあれば、消えゆく文化もある。

その代表格が「人間の耳たぶに穴をあけ、それを長く伸ばすこと」と「抜歯」だ。サバさんは「若者に伝承されずに消えつつある」と感じている。

直径5~10センチメートルの長い穴があいた耳たぶは、伝統的なファッションであり、また「知恵と尊厳のシンボル」とされてきた。男女関係なくだれもがやっていた。

ところがマサイ族の若者はいまや、好んで耳に穴をあけなくなった。マサイマラで育った主婦のマリアン・ナシパイさん(26歳)は「穴を耳にあけたマサイ族は50歳以上の人たち。古い(年老いた)世代だよ。私はやりたくない。耳たぶに穴をあけて、飾りをつけているマサイ族はもうじき見られなくなる」と話す。

マサイ族の儀礼のひとつである、下の前歯1~2本を抜く文化(抜歯文化)も敬遠されつつある。

ナシパイさんは「私の両親は、マサイ族の文化である抜歯を、痛かったから娘にさせたくはない、という理由で強制してこなかった。歯を抜くなんてできないし、今はもう、文化が必ずしも強制されなくなっているわ」と語る。

抜歯するマサイ族の若者はいまや少数派だ。そのひとり、マサイマラで生まれ育ち4人の男児をもつサファリパークの観光ガイド、ルース・オレレボイさん(36歳)は「長男(11歳)の歯をもうじき抜く予定」と話す。伝統に従い、麻酔や薬は使わない。出血が止まらない人もいるという。

マサイマラに住むマサイ族の男性(56歳)の耳。耳たぶが大きく下に垂れている。昔はこの耳たぶに沿って装飾品を付けていたという(2022年7月22日、筆者撮影)

マサイマラに住むマサイ族の男性(56歳)の耳。耳たぶが大きく下に垂れている。昔はこの耳たぶに沿って装飾品を付けていたという(2022年7月22日、筆者撮影)

マサイ族の伝統的な装飾品を作るナシパイさん。抜歯や耳に穴をあけることはしないが、伝統的な装飾品を作るのは稼げるため続ける(7月23日、筆者撮影)

マサイ族の伝統的な装飾品を作るナシパイさん。抜歯や耳に穴をあけることはしないが、伝統的な装飾品を作るのは稼げるため続ける(2022年7月23日、筆者撮影)

マサイ族の装飾品を身につける女性。マサイ族のダンスは、派手でカラフルな装飾を身にまとい、装飾品の音を鳴らしながら踊る(7月23日、筆者撮影)

マサイ族の装飾品を身につける女性。マサイ族のダンスは、派手でカラフルな装飾を身にまとい、装飾品の音を鳴らしながら踊る(2022年7月23日、筆者撮影)

ルース・オレレボイさん(36歳)の歯。幼いころに下の前歯を抜いたため、すき間がある。麻酔は使わず、痛かったと振り返る(7月22日、筆者撮影)

ルース・オレレボイさん(36歳)の歯。幼いころに下の前歯を抜いたため、すき間がある。麻酔は使わず、痛かったと振り返る(2022年7月22日、筆者撮影)

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