空爆から逃れタイで働くシャン州出身のミャンマー人、「花火の音を聞くと動悸が止まらない」

「ミャンマーにはあと30年は帰れない」と語るジェイさん(26歳)。3万バーツ(約15万円)で購入したホンダのバイクでチェンマイの山にハイキングに行くのが週末の楽しみだ

ジャングル通り抜け不法入国

ジェイさんはパスポートを持っていなかった。このため飛行機には乗れず、陸路で不法入国した。旅費は交通費、宿泊費、国境通過のためのエージェント代を合わせて日本円にして4万5000円。月給1万5000円のジェイさんにとってはかなりの大金だ。多くのミャンマー人は借金をしてタイに入国するが、ジェイさんは家族が旅費を支援してくれた。

違法での越境は想像を絶するほど過酷だ。まずはタンヤンからミャンマー側にあるタイとの国境の町タチレイまで車で移動する。5人乗りの乗用車に、運転手を含む計9人が詰め込まれた。後部座席には4人が座り、3人は最後部の荷室に乗った。国軍の検問所を避けてジャングルの中を2泊3日で移動。食事など込みで2万5000円だった。

この後、エージェントに5000円を払い、国境を通過してタイ側のメーサイに入る。エージェントを使ったことで、ミャンマー側でもタイ側でも賄賂を要求されることはなかった。

タイに入国後はメーサイからチェンマイまで、小型のピックアップトラックの荷台に5人乗って移動するのに3000バーツ(約1万5000円)。「ジャングルの中を走ったミャンマー国内の移動に比べて、荷台であってもタイの舗装された道は快適だった」とジェイさん。そうはいってもパスポートなしでタイにいる状況で、いつ拘束されミャンマーに送還されるか気がかりだったという。

朝から晩まで働き月6万円

チェンマイに着いてからは、ミャンマーから同じように逃れてきたシャン族のコミュニティが就職などの面倒を見てくれた。英国人が経営するレストランで働くことが決まり、ピンクカード(タイ国内で合法に滞在でき、一部の肉体労働の仕事が認められる証明書)を取得。だがもともと理系の大学生でITの知識があり、英語も堪能なジェイさんは「この仕事では自分のスキルを生かせない。薄給での肉体労働は苦しい」と不満をあらわにする。その後もランドリーショップなどの職を転々とした。

今はタイの健康食品通販「マクロビオティック・ワールド」の倉庫で商品のピッキングをする。月曜から土曜まで、朝の9時から夕方6時まで働いて月給は1万2000バーツ(6万円)。後からタイに来た弟とともに1カ月の家賃2500バーツ(1万2500円)のアパートに住む。生活には余裕がなく、フェイスブックの求人グループで別の職を探す日々だ。

ジェイさんのささやかな夢は、大好きなミャンマーコーヒーを出す小さな店をタイで開き、また自身の体験を本にすること。「ミャンマーの内戦がいつか終結したら、この国で起きたことや自分が歩んできた人生を次の世代に残したい」

ビルマ語とシャン語の両方を話すシャン族のジェイさんにとっては、内戦終結後のミャンマーに対する思いは複雑だ。民主派の武装勢力「国民防衛隊(PDF)」や少数民族の武装勢力を支持するも、彼らが勝てばまた別の問題が浮上する懸念もある。

「ミャンマーにはあと20~30年は帰れないだろう。仲間たちと田舎で平穏なスローライフを送れれば、それだけで十分幸せだ」。正義への壮大な理想を語るのではなく、ジェイさんはうつむきがちにこうつぶやいた。

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