ロシアのウクライナ侵攻だけではない! この裏に隠れた10の「世界が注目しない危機」

中央アフリカ共和国中部にあるバンバリ空港の周辺にできた国内避難民キャンプ中央アフリカ共和国の中部にあるバンバリ空港の周辺にできた国内避難民キャンプ

ソマリア、過去40年で最も厳しい干ばつ

4つめは、東アフリカのソマリアで深刻化する干ばつだ。大きな要因となったのは、2020年から3年連続で雨季にほとんど雨が降らなかったこと。UNICEFによると、この4~6月の雨季にも多くの雨は見込めないという。

グテレス国連事務総長は3月末、自身のツイッターで「ソマリアの人々はこの40年で最も厳しい干ばつにあっている。2月には160万人を人道支援したが、もとの計画の4%しか資金調達できていない」という主旨のコメントを投稿した。

干ばつの影響でソマリアでは同国の5歳未満児の半数にあたる140万人以上が急性栄養不良に、この4分の1の32万9500人が重度の栄養不良に陥るとUNICEFは予測する。

ケニアの首都ナイロビのソマリア人居住区に住む30代の女性は「これまでソマリアを襲ってきた干ばつの中で最悪。市民は水を手に入れられないうえに、飼っている家畜も死んでしまったと聞く」と語る。

エチオピアのティグライ紛争、休戦も食料届かず

5つめは、エチオピア北部で1年5カ月続くティグライ紛争だ。開戦のきっかけとなったのは、同国のアビィ首相が2020年11月、最北部のティグライ州を拠点とする勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」にエチオピア政府軍を派遣したことだ。

ティグライ紛争の主な要因について、アフリカ日本協議会(AJF)国際保健部門ディレクターの稲場雅紀氏は「TPLFの排除・孤立化を2018年から進めてきたアビィ首相が、民族を単位とする連邦制から、より国家の力を強める体制への移行を急ぎすぎたためだ」と推測する。

こうしたなかアビィ政権は3月24日、「無期限の人道的休戦」の即時発効を宣言した。

ティグライ紛争の休戦について、エチオピア西部のガンベラ州で働く日本人男性は「休戦後、WFP(国連世界食糧計画)の支援トラックがティグライ州に入るようになったものの、エチオピア政府が敷いた包囲網があるため、食料や燃料などは届いていない。ネットや電話も基本的につながらない状態」と明かす。

日本人男性は続ける。

「休戦についての一般市民からの反響はかなり薄い。関心ごとは、紛争が始まってから悪化する物価の上昇(ここ数ヶ月だと4~8倍)。首都アディスアベバのタクシー運転手からは、仕事ひとつだけで食っていけないという声を頻繁に聞く。エチオピア経済はガタガタ」

ハイパーインフレ続くベネズエラ、難民の数はウクライナ以上

6つめは、南米ベネズエラの経済破綻だ。ベネズエラの通貨ボリーバルの価値が暴落するハイパーインフレがいまも続く。経済規模の大きさを示す国内総生産(GDP)は2017~2020年の3年間で半減。米国の通信社ブルームバーグが出す「最も惨めな国ランキング」では6年連続で世界1位になっている。

ベネズエラでは生活が立ちゆかず、近隣のラテンアメリカ諸国などに逃れる難民は2021年12月時点で605万人。3月30日時点のウクライナ難民405万人を上回る。国連は、ベネズエラ難民はいずれ890万人に達するとの予測も出している。

ベネズエラは世界最大の石油埋蔵確認量をもつ国だ。米国政府はトランプ前政権時代から、ベネズエラ産の石油に対して禁輸措置をとってきた。だがロシアのウクライナ侵攻を受け、米国のバイデン大統領はロシア産の原油の輸入を禁止。代わりにベネズエラ産石油の輸入を解禁するとの動きもある。

ベネズエラ東部に住む30代の女性は「ベネズエラ経済が崩壊した要因は、紛争ではなく、ベネズエラ政府の失策にある、とベネズエラ人はみんな思っている。ベネズエラ経済はいまは一時的にほんの少し良くなっているが、それはウクライナ危機による石油価格の高騰によるもの。経済危機が収束に向かっているわけではない」と話す。

エチオピアの首都アディスアベバの町並み。アフリカ連合の本部の所在地でもある

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ベネズエラ・カラカスの貧困地区の子どもたち。経済危機で生活は苦しても元気いっぱいだ

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