障がい者はセックスしないのか? 「HIVプログラムは“インクルーシブ”に」とヒューマン・ライツ・ウォッチ

障がい者もセックスをする。もちろんHIVにも感染する――。国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチは12月1日、「HIVに感染した障がい者に対してもHIV・エイズの知識を与えるべき」と訴えかける記事を同団体のホームページに掲載した。

南アフリカ在住で、耳が不自由なジョン・メレツェさんは2001年、HIV検査のために病院へ行った。病院ではだれも手話ができなかったため、医師は、「あなたはHIV陽性だ」と書いた紙切れだけを彼に渡し、病院を立ち去るよう言ったという。HIVの知識も情報ももたないメレツェさんはどうしてよいか分からず、途方に暮れた。

これは、とりわけアフリカでは珍しくない光景だ。そもそも障がい者は全世界で10億人以上。世界人口の15%を占めるといわれる。HIVに感染した障がい者も少なくない。

アフリカでは、障がいをもつ子どもの3人に1人は小学校に入学できていない。性教育は小学生を対象にスタートするため、障がい者はこの時点ですでに情報へのアクセスが絶たれている。こうした状態が生涯にわたって続くと、HIV・エイズについての一般的な知識、予防・治療の方法、支援の受け方などの情報を、障がい者は得られないことになる。

ザンビアの村では、HIV・エイズの研修が開かれても、HIV感染の危険性や予防などについて説明されたビラは、障がい者には配られないという。背景には「障がい者はセックスしないでしょう? だからHIVの情報は必要ない」という根強い偏見がある。

女性の障がい者に対して村の保健ワーカーが「障がいがあるから、子どもをもつ親としてふさわしくない」と非難することもざら。障がい者らは自ずと、ヘルスケアサービスを避けるようになる。

障がい者はまた、健常者と比べて、仕事に就くのがはるかに難しいとの現実がある。このためセックスワーカーとして働く障がい者もいるが、この場合、HIV感染リスクが高まるだけでなく、ケアワーカーからの嫌がらせや差別、レイプに遭っている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが2012年に実施した調査では、全世界の71%の国が、HIV・エイズ予防プログラムに障がい者も含めようと、情報へのアクセス方法を改善するなど努力していると回答した。実態は不明だが、世界は少なくとも徐々に、インクルーシブ(すべての社会層が参加可能)な社会へと移行しつつある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは「政府と市民社会が障がい者の意見を聞き、障がい者が参加しやすいHIV・エイズ予防プログラムにしていくべき」と指摘する。障がい者と密接な関係をもつ団体が今後、HIV・エイズ予防プログラムのカギとなるアクターになりうるといえそうだ。(今井ゆき)