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「フィジーを愛している。だからこのTシャツを着ているのさ」。フィジーでホテルマネージャーとして働くセタリキ・ソコさん(58)の胸には「フィジーアイランド」の文字がある。
ビチレブ島西部の街、ナンディにある多くのアパレルショップでは、“フィジーデザイン”の服が販売されている。フィジーデザインとは、国旗が描かれたものから、フィジーの国民的飲料である「カバ」のイラストがデザインされたものまで種類は豊富だ。
フィジーでは、そういったデザインのTシャツやスル(巻きスカート)を着るフィジー人が街中にあふれている。ナンディに来た当初、こうした商品は外国人観光客に向けたお土産として売られているものだと思っていた。だが、普段着として使っているフィジー人が多いことに驚く。今回は、ファッションを通じて、フィジー人の「自国愛」を考えてみたい。
■フィジーTシャツは山ほど所有
「フィジーデザインのTシャツは数え切れないくらい持っているよ」とほほ笑むセタリキさんは週に2~3回、フィジーTシャツを着る。ナンディタウンに買い物に行く際、フィジーTシャツは彼にとって必須アイテムになっている。
フィジー国内で展開する人気のアパレルショップ「ジャックス」のナンディ店の女性店員ケレシ・マラマさんは「フィジーデザインの服は観光客をターゲットに販売しているわ。でもフィジー人も買いに来る。フィジー人は、自分たちが着ることで、外国人にフィジーをアピールしたい気持ちがある」と言う。
また衣類以外にも、フィジー国旗を立てた車やバス、家などをよく見かける。自国愛を日常からアピールするのが「フィジー流」といえそうだ。
■仕事よりオリンピックを優先
リオデジャネイロオリンピックのラグビー7人制でフィジー代表が金メダルを獲得したことは記憶に新しい。フィジー人と話せば、あいさつの次には「きのうの試合を観たか?」とラグビーの話が始まるほど、自国がオリンピックで活躍していることに興奮を抑えられない様子だ。
とくにユニークだったのは決勝戦の日(8月11日)。フィジー国民全員がテレビの試合にくぎ付けになった。地元企業のなかには業務を中断し、社員にTV観戦のチャンスを与えたところもある。銀行のウェストパックは試合前、「大切なお客様へ。フィジーは歴史を作ろうとしています。30分間業務を停止します」と書いた案内を店頭に張り出した。
優勝に感動したバイニマラマ首相はオリンピック終了後の8月22日を祝日に制定。フィジー各地で、7人制ラグビーの優勝を祝福するイベントが開催された。
フィジー人の自国愛は調査にも表れている。米調査会社ギャラップとWINが2014年に実施した「国家や宗教、地域など集団を作る要素で何を最も重視するか」の調査で、フィジーは48%(1002人中482人)が「国家」と答え、選択肢の中で最も高い結果だった。フィジーは国民の約53%がキリスト教徒だが、「宗教を重視する」と答えたのは33%にとどまった。ちなみに日本は「無回答・わからない」が37%(1109人中409人)と最も多かった。
国の開発の度合いを測るために、国連開発計画(UNDP)が平均寿命や成人の識字率、国民1人あたりの国内総生産(GDP)などを用い算出する人間開発指数(HDI)をみると、フィジーは88位(2014年、187カ国中)と中位にとどまっている。要するにフィジーは発展途上国。そんな中で「フィジーのことが大好き」と発せられる言葉には、多くを求めず、あるもので幸せを感じるフィジー人の生き方が垣間見えてくる。