ニームオイルの隠れたニーズに目をつけたベナンのスタートアップ企業、成功の秘訣は「マーケットイン」にあった

アグリシロエ創設者(マーケティング担当)のウェリノ・シエリーさん。起業当初から販売するニームオイルとココナツオイルは現在でも目玉商品だ(ベナン・アボメカラビ市で撮影)アグリシロエ創設者(マーケティング担当)のウェリノ・シエリーさん。起業当初から販売するニームオイルとココナツオイルは現在でも目玉商品だ(ベナン・アボメカラビ市で撮影)

西アフリカ・ベナンのアボメカラビ市に、ボディーケア用ニームオイルを目玉商品とする「アグリシロエ(Agri-Siloe)」というスタートアップのメーカーがある。8種類の自社商品をもつ同社最大の強みは、経営者が自らスーパーマーケットに赴き、担当者へヒアリング調査をするなど、「マーケットイン」を実践していることだ。設立3年目に入ったアグリシロエの商品は、街中のスーパーや薬局などで簡単に入手できるまでになった。

2016年に2人のベナン人が設立したアグリシロエ。2018年の年間売り上げは750万セファ(CFA)フラン(約150万円)、利益は320万CFAフラン(約64万円)をあげた。2019年現在、創設者2人の他に7人の従業員を雇う。売り上げは毎年右肩上がりだ。

同社の特徴は、徹底したマーケットインの実践にある。マーケットインとは、ニーズ調査のもと、消費者が必要とするものを戦略的に生産・販売する考え方だ。起業前からマーケティング手法を独学で勉強していた共同設立者(マーケティング担当)のウェリノ・シエリーさんは「商品を手にする消費者が本当に求めていることを知ることが一番大事だ。起業したばかりのとき、真っ先にスーパーや薬局の販売担当者を訪ねて、消費者はどんな商品を求めているのか話を聞いたよ」と語る。

ヒアリング調査をしてわかったのは、ボディーケア用のニームオイルや、調理用ココナツオイルがベナン人の間でニーズはあるのに、スーパーなどでも手に入りにくいことだった。このため同社はスーパーに卸すオイル製品の開発に乗り出した。現在もカスタマーサービス(電話)を通じて、こんな商品がほしいといった要望を消費者から直々に受け付け、商品開発につなげるという徹底ぶりだ。

生産プロセスで一番気を付けているのは品質管理。そのために4つの農業組合と契約を結び、農家には同社独自のトレーニングを受けることを義務付ける。パイナップルやニンジンの栽培では、ベナンで普及し始めたばかりのポリエチレンフィルムを畝にかぶせる農業手法を教える。ニームの実の収穫期には土の上に布を敷き、木から落ちたニームの実に砂が混ざらないよう気を配る。

「最高品質の材料を手に入れるためには、農家のトレーニングと同時に、フィルムや布、耕運機などを買うためのお金も必要だ。妥協せず必要なものはすべて購入できるように、お金はきっちりと農家に渡している」とシエリーさんは語る。

発売当初、同社は得意先のスーパーをつくるため、商品を買い取る形で仕入れてもらうのではなく、売れた分だけ支払ってもらうやり方を採用した。このトライアル期間中の売れ行きが良く、同社の商品の品質の高さを証明することに成功。それ以降、同社と契約を結びたがる国内流通業者は増え、信用に足り得るパートナー3社と取引する。

同社の製品はまた、世界的な衛生管理基準である「HACCP」の認証を取得済みだ。これを武器に、他のアフリカ諸国やフランス、ドイツ、スウェーデンへの海外輸出も始めた。

2019年の経営目標は、オイルを抽出する機械1台、果実酒をつくるため蒸留用の機械1台を新たに導入すること。さらにこれまで同社がもっていなかった、オイルをフィルタリングする機械を2019年末までに購入する予定だ。これら3台の機械は、オイル製品の生産能力を現在の2~3倍にアップさせる。シエリーさんは「社名のアグリシロエとはフランス語で、農作物で人々を癒すという意味。社名に込めた思いを実現するためにも、常に世界基準で良い品質の商品を届けたい」と意気込む。