【タイ選挙特集④】司法クーデター・解党命令を連発する憲法裁判所、「国王の意向だ」

人権弁護士のノイ。「国王が裁判官を任命するタイの司法制度には大きな問題がある」と話す人権弁護士のノイ。「国王が裁判官を任命するタイの司法制度には大きな問題がある」と話す

民衆に人気の党は潰される

司法クーデターと並び、タイの政局を大きく左右するのが憲法裁判所の解党命令だ。

憲法裁判所は2007年、タクシン氏が率いていたタイ愛国党に対し、選挙違反をしたとして解散を命じた。2019年にはタクシン派の国家維持党にも解党を命令。国王の姉であるウボンラット王女を次期党首候補に擁立しようとしたことが、王室の政治利用ととらえられたからだ。

国家維持党の解党を受け、タクシン派は弱体化。軍部が上院250人を指名できるとする2017年の憲法の影響もあり、2019年の総選挙での政権奪回に失敗した。

2020年にタイ国内で盛り上がった民主化デモも、憲法裁判所が発した解党命令が発端だった。処分を受けたのは新未来党。軍政を批判した同党は2019年の総選挙で81議席を獲得し、第3党に躍進していた。

ノイの事務所で働く学生インターンはこう憤る。

「民主的で勢いのある政党は解党させられる。これが国王の意向なのは間違いない」

盲目の女性が不敬罪に

不敬罪についての裁判所の判決も恣意的だ、とノイは話す。例に挙げたのが、タイ南部のヤラー県に住む盲目の女性に対する不敬罪の裁判だ。女性は前国王(ラマ9世)を批判する記事のリンクをフェイスブックに載せていた。

ヤラー県の裁判所は2018年1月、女性に18カ月の禁固刑を言い渡した。だが同年2月の控訴審では一転、「盲目であることから、女性は投稿した内容がラマ9世を批判する記事だと把握できなかった」として無罪判決を出した。

ノイは言う。

「一審判決が出た後、国連や世界の人権団体が抗議した。その結果、判決が覆った。国際世論を見て無罪にしたほうが得策だと判断したのだろう。このケースからも裁判所の判決に一貫性がないことは明らかだ」

ノイは続ける。

「政治や王室がかかわるケースで、タイの裁判所にチェック機能はない」(続く

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