フィリピンでまん延する覚せい剤、「孤独感」が原因!

フィリピン・ネグロス島サンアグスティン教会のジュリウス・ヘルラ神父。社会におけるカトリック教会の必要性を説く(2017年9月23日撮影)

「(フィリピンで)覚せい剤がまん延していることと貧困は関係ない」。こう強調するのはネグロス島在住のジュリウス・ヘルラ神父(54)だ。問題なのは、貧しさではなく、親が共働きで忙しいなどの理由から、注目されない寂しさを子どもが感じることだ。ドゥテルテ大統領が2016年6月に就任して以来、フィリピン政府はドラッグの売人と使用者を殺害・逮捕するなど厳しい取り締まりに乗り出した。人権を無視した強硬なやり方は、ドラッグ使用者が社会復帰する機会を奪っている。

ネグロス島ドゥマゲティ市の中心部から車で20分に位置するバコン町のサンアグスティン教会。ヘルラ神父によると、子どもがドラッグに手を出す主な理由は「孤独感」だという。フィリピンでは共働きの家庭が多く、バコンも例外ではない。親と過ごす時間が少なくなったことで子供たちは心のよりどころを探し、非行に走る傾向が強い。覚せい剤の使用は典型的な非行の一つだ。サンアグスティン教会の中にいた信者のヴィセント・アルコリザ氏(48)は「シャブ(覚せい剤)はお金持ちも貧しい人も買っている」と言う。

フィリピンメディアのABS-CBNニュースは2016年5月10日から2017年9月19日まで地域別のドラッグ関連の死亡者数を調査した。結果、フィリピンで最も裕福であるマニラ首都圏の人口(1300万人)に対する死亡者(283人)の割合は、セブ、ボホール、ネグロスオリエンタル、シキホルの4州を指す中部ビサヤ(人口740万人、ドラッグ関連死亡者数125人)より約30%上回った。

ドゥテルテ政権はドラッグ売人・使用者を片っ端から逮捕しているだけではない。ラストチャンスを与える政策をとっている。その政策は「オプラン・トクハン」(ビサヤ語で「投降しなければならない」の意)だ。これは、まずバランガイ(フィリピンの最小行政単位)がもつドラッグの使用者と売人のリストを警察に渡す。警察はリストに載った人々を呼び出し、最終通告としてドラッグから足を洗うよう伝える。「その場で逮捕することはない」(アルコリザ氏)。この後に最終通告を無視して、ドラッグを使用・売買した人々を逮捕するシステムだ。

しかしこの政策は人々の「孤独感」を根本的に解決する方法ではない。カトリック信者のウェンドリン・ガディ氏は「ドラッグ使用者は被害者だ。警察に投稿したドラッグ売人・使用者を『サレンダー』と呼ぶのではなく、新しい人生を歩もうとしている『ニューライフ』という名前に変えるべき」と持論を展開する。

教会も対策をとっていない訳ではない。2016年には教会が先導して8~12世帯のカトリック信者のグループを立ち上げ、日常生活の不満や覚せい剤の問題などをフランクに議論する場を作った。しかしこの取り組みの有効性は疑わしい。グループに所属しているガディ氏は「覚せい剤を以前使用していて、これから社会復帰を目指すために現れた人は一度も見たことがない」と述べた。また、グループに入っていないが、毎週日曜のミサに参加するというマべル・ティア氏は「このグループは井戸端会議と同じ。暇な人がやっている」と打ち明ける。

ドゥテルテ大統領の厳しいドラッグ政策の見直しも必要だ。「ヘルラ神父さま。私は教会には相談できない。相談したことが世間にばれたら社会復帰ができない」。この言葉をドラッグ使用者から聞いたヘルラ神父は、教会として社会復帰を助けらない無力さを嘆く。