パキスタンからの帰還民の子どもに“憩いの場”、NGOシャンティがアフガン東部に「子どもに優しい空間」

アフガニスタン東部でシャンティ国際ボランティア会が運営する「子どもに優しい空間」で絵本を読む子どもたち(写真提供:シャンティ国際ボランティア会)アフガニスタン東部でシャンティ国際ボランティア会が運営する「子どもに優しい空間」で絵本を読む子どもたち(写真提供:シャンティ国際ボランティア会)

NGOシャンティ国際ボランティア会(SVA)が5カ月前にアフガニスタン東部にオープンした「子どもに優しい空間」が、パキスタンからアフガニスタンに戻った元難民(帰還民)の子どもにとって憩いの場となっている。パキスタン政府は2016年7月、同国内に住むアフガニスタン難民を帰国させる政策を決定。これを受け、アフガニスタン難民らがこぞって母国に帰り始めた。ただ「アフガニスタンに戻っても、お金がなくて学校に行けない子どもたちは多い。地元の子どもたちからばかにされたり、テロリストと疑われたりすることもある」とシャンティ・アフガニスタン事務所の山本英里所長は憂慮する。

■最初は殴り合う子も

子どもに優しい空間をSVAが立ち上げたのは2017年11月。場所は、パキスタンとの国境に近いアフガニスタン東部ナンガハル州のベスッド郡とカマ郡の2カ所だ。

子どもに優しい空間では、学校に行けない子どもたちを集め、絵本の読み聞かせやレクリエーションゲーム、読み書き教室などをする。毎日集まってくるのは100~150人の子どもたち。多くは10歳前後で、姉や兄が2~3歳の妹・弟を連れてくることもある。帰還民の子どもだけでなく、地元の子どもや国内避難民の子どももいる。ゲームや劇を一緒にすることで、お互いの理解を促進することが目的だ。

だが、子どもに優しい空間に通い始めた子どもたちの中には、殴りあって本を奪ったり、貧しくて服を変えられない子どもに対して「におうから同じ部屋にいたくない」と言ったりする子どももいるという。「そうした言動がなぜ悪いのかを教えられていない。共感性が育っていないだけ。子どもたちときちんと話をすればわかってくれる」と山本氏は説明する。

子どもに優しい空間にはまた、教育だけでなく、子どもの居場所を作るという目的もある。ナンガハル州は治安が悪いため、子どもたちが外で遊べない場所も少なくない。学校に行けない子どもたちは必然的に家に閉じこもることになる。「帰還民の親たちは、子どもをテロリストや武装グループに誘拐されるのが心配で、働きに行けないと困っている」(山本氏)

アフガニスタンには2012年以降、日本人のNGOスタッフが渡航できない。このため子どもに優しい空間の運営を担うのはアフガニスタン人スタッフだ。現地ではNGOスタッフというだけで、武装勢力に襲われる危険もある。山本氏によると、NGOで働く理由としてSVAの現地スタッフのひとりは「子どものとき、難民キャンプにいて支援してもらい、希望を得た。その恩を返したい。希望をもって生きる子どもを少しでも増やしたい」と話しているという。

■3分の1が帰還民

ナンガハル州の人口は約150万人。この3分の1に当たる約50万人がパキスタンからの帰還民だ。州内にはまた、武装勢力が制圧する地域も多くあり、住む場所を奪われて国内避難民となった人も少なくない。パキスタンからの帰還民はアフガニスタン全体で2016年に約62万人、2017年は100万人を超えると推定される。

アフガニスタンでは1979年の旧ソ連の侵攻以来、1990年代の内戦、1995~2001年のタリバン政権、2001年の同時多発テロを受けた多国籍軍の攻撃と紛争が続く。パキスタンの言語(ウルドゥー語)や文化しか知らない難民2世、3世も多い。

アフガニスタン政府は、帰還民のためのキャンプを設けなかった。そのため帰還民の多くは遠い親せきを頼って住む場所を借りるか、地主から空き地を借りてテントを建てて暮らす。動物の小屋に住む人さえいる。どんな場所でも賃料が必要になる。

しかし地元民にも失業者が多い現実。帰還民が仕事にありつくのは困難だ。家族のために町を歩き回り廃材を集め、売る子どももいる。廃材を売っても1日の収入は2~3ドル(215~325円)。家族の毎日の食事は小麦のパンとギー(ヤギのバター)、塩だけだ。

■紛争で3500人が死ぬ

アフガニスタンでは現在もタリバン、イスラム国(IS)が活発に活動し、国軍との間で交戦状態が続く。2017年に自爆テロや戦闘に巻き込まれて死んだ市民は3438人、負傷した市民は7015人にのぼる。この3割が子どもといわれる。

タリバンやISの理念に賛同するのではなく、軍や他の組織に家族を殺された復讐心からテロ活動にかかわる人もいる。「憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖を断ち切らなくてはいけない。タリバン、IS対策だけでは紛争解決には不十分だ。『戦ったことしかない人たち』を理解しないと真の対話はできない」。紛争解決の難しさについて山本氏はこう語る。

シャンティ・アフガニスタン事務所の山本英里氏所長 (3月12日に都内で開かれたイベント「テロと難民 情勢不安に陥ったアフガニスタンの今」で撮影)

シャンティ・アフガニスタン事務所の山本英里氏所長 (3月12日に都内で開かれたイベント「テロと難民 情勢不安に陥ったアフガニスタンの今」で撮影)