【ロヒンギャ政党のチョーソーアウン幹事長 独占インタビュー(上)】スーチー氏の手を握って目を見つめた

ロヒンギャの政党「民主人権党(DHRP)」のチョーソーアウン幹事長ロヒンギャの政党「民主人権党(DHRP)」のチョーソーアウン幹事長

ミャンマーの最大都市ヤンゴンに本部を置く、ロヒンギャ(イスラム教を信仰するベンガル系住民)の政党がある。「民主人権党(Democracy and Human Rights Party=DHRP)」だ。2020年11月の総選挙に向け、ロヒンギャの参政権を要求するとともに、複数の候補者を準備して議席獲得を目指している。アウンサンスーチー国家顧問は、ロヒンギャ問題に消極的として国際的に批判されるが、DHRPのチョーソーアウン(Kyaw Saw Aung)幹事長はganasの単独インタビューに応じ「スーチー氏を100%信じている」と胸のうちを語った。3時間にわたった貴重なインタビューを3回に分けてお伝えする。

■国籍ないからパスポートもない

――チョーソーアウンさんの出自は。

「私はロヒンギャだ。ミャンマー西部のラカイン州のブディタウン地区(人口の9割がロヒンギャとされる)で生まれた。高校卒業後、当時のラングーン学芸科学大学に進学するためヤンゴンに移り住んだ。学生時代は『マユ発展のための学生青年連盟(Student & Youth League for May Yu Development)』の代表を務めた。

1988年の民主化運動(旧ビルマで長年の軍事独裁政権に対して起きた民主化要求運動。ピークを迎えた1988年8月8日に、大規模なデモ隊に軍が凄惨な鎮圧を行ったことから『8888民主化運動』と呼ばれる)にも参加した。その直後、政権を批判したとして、1989年から20年間、獄中で過ごした。出所後の2012年からDHRPで活動している」

――学生時代から政治運動にかかわってきたチョーソーアウンさんが所属するDHRPはどんな理念をもった政党なのか。

「私たちの目指すものは3つ。『人権の保障』『すべての人々の平等』『真の民主主義』だ。ロヒンギャに限らず、この国で生きる一人ひとりに平等な権利がある。その決して奪われてはいけないはずの人権を最も奪われているのがロヒンギャだ。

ミャンマー国内に推定100万人いるとされるイスラム教徒のロヒンギャは、ミャンマーの国籍法では民族として認められていない。政府からも国民からも『不法移民』として扱われる。ミャンマー国軍からの迫害の対象で、国内避難民キャンプへの強制移住や、レイプ・集団殺害などの『民族浄化』も起きている。2017年8月にはロヒンギャの武装集団が警察施設を襲撃したのに対し、国軍が村を焼くなどして激しく弾圧。以降およそ75万人が難民としてバングラデシュへ逃れた」

――ロヒンギャはどんな人権を奪われているのか。

「ロヒンギャは、政府から国籍を認められていない。パスポートもないので、国外に出られない。ラカイン州北部では国内避難民キャンプ(およそ40カ所に約13万人のロヒンギャなどが収容されている)に移住させられる(ロヒンギャは国籍を認められていないため、国内で移動するときは移動許可書類を入手し、検問所のチェックを受ける義務がある。この書式や許可を得るためには、あらゆる段階で賄賂が必要だという)」

■国内を自由に移動させてほしい

――ロヒンギャの人権を取り戻すために、DHRPはどんな政治活動をしているのか。

「『ラカイン州に関する諮問委員会』という機関が2017年、88項目の勧告を出した。この委員会は、ラカイン問題についての調査と解決策の提案のための中立的な機関で、アウンサンスーチー氏の要請で設置されたものだ(委員長は、元国連事務総長のコフィ・アナン氏)。だがこの88項目はまだ、まったく実行されていない。そのため委員会のメンバーだった人たちに、実現に向けて動いてほしいと要望書を出している」

――88項目の提言にはどんなものが含まれているのか。

「無国籍の人に市民権を認めること、すべての人が自由に国内移動できるようにすること、国内避難民キャンプを閉鎖すること、国籍法の改正を検討することなどだ。ロヒンギャにも国民としての権利を認めるべきという内容だった」

――政府に対しても、DHRPはロヒンギャの人権を認めるよう働きかけているのか。

「もちろんだ。たとえば、ミャンマーでは独立記念日などの祝日に、政府関係者や政党の代表者が首都ネピドーに集まる。そうした機会には必ず、すべての人に平等な人権を認めてほしいと話す。前回も、スーチー氏の手を硬く握って目を見つめ、こう訴えた。『すべての人が平等な権利をもつ社会を実現するために協力したい。私たちにできることを、ぜひ話し合わせてほしい』」

――スーチー氏らの反応はどうか。

「残念ながら、まだ話し合いは実現していない。ネピドーから毎回帰ってくると『いつ話し合いができますか』と手紙を出すが、返ってきたことはない」

■罪のない逮捕者を救う

――政策提言のほかにはどんな活動をしているのか。

「当たり前の権利が得られない人たちを支援している。たとえば2020年1月には、国内を許可なく移動したとして、エヤワディ管区とヤンゴン管区で約200人のロヒンギャが逮捕された。3月13日時点で、すでに25人に2年間の懲役刑が確定した。現在、この刑を軽くするため、弁護士とともに連邦政府に異議を申し立てている」

――実際に懲役刑が科されるとは。

「それだけではない。ミャンマーの少年法は16歳未満の子どもに対して拘禁刑を科してはいけないと定めている(死刑や終身刑にあたるような悪質な犯罪は除く)。しかし200人中50人ほどいた16歳未満の子どもは、拘置所に入れられてしまった」

――彼らはラカイン州から逃れてきた人たちなのか。懲役や拘留のリスクを犯して逃亡するのは、国内避難民キャンプでの生活は相当厳しいということか。

「学校や病院どころか、水や食べ物へのアクセスにも事欠くような劣悪な環境だ。彼らは7年以上もそういう場所に住んでいた。逮捕された200人の中には1〜2歳児もいた。キャンプで生まれた、何も知らない赤ん坊たちだ。彼らに何の罪があるだろう」

――こうした状況や政府の姿勢を変えるためには世論の後押しが欠かせない。情報発信もしているのか。

「している。この件は、ロイター通信やABCテレビなど大手メディアに、逮捕された人の話や裁判の日程などを伝え、取材をお願いしている。こうした現状が世界に発信されることで、私たちを取り巻く状況は変わっていくと信じている」

■ビルマ族のためにも動く

――これまでロヒンギャのお話を中心に聞いてきたが、DHRPは「ロヒンギャによる、ロヒンギャのための政党」なのか。

「党員の多くはロヒンギャだが、ロヒンギャだけのための政党ではない。私たちが目指すのは、すべての人に等しく、当たり前の権利がある社会、そして本当の民主主義だ」

――ロヒンギャ以外の人の権利のために活動することも実際にあるのか。

「ある。ミャンマーの大多数を占めるビルマ族や、仏教徒の中にも、当たり前の権利が与えられない人はいる。たとえば、2008年に14万人の死者を出したサイクロン『ナルギス』により、国民登録カードをなくした人たちだ。ミャンマーではこのカードがなければ、選挙権もないしパスポートもとれない。だがビルマ族の仏教徒であっても、いまだに再発行を受けられない人がいる。DHRPはこうした人たちのカードを再発行するよう、政府に要請している」(続く

ヤンゴンの中心部に位置するランドマーク、スーレーパゴダ(左の仏塔)に向かい合うように建つモスク。多民族国家のミャンマーを象徴するような光景

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