【interview】ミャンマー政府は「脱・軍事国家のふりをしている」、在日ビルマロヒンギャ協会のゾーミントゥ会長に聞く②

ロヒンギャ2ゾーミントゥ氏

2011年3月に民政移管を果たしたミャンマー(ビルマ)。だが、いまだに残る「軍人を優遇する憲法」や「解放されていない政治囚」など、その実態は以前の軍事国家のままだ。民主化移行と報道されるミャンマーの真の状況について、在日ビルマロヒンギャ協会のゾーミントゥ会長に聞いた。このインタビューは前回(12月18日付)に続く2回目。

■国会議員の大半は軍人・元軍人

――いまのミャンマーをどう評価するか。国際社会は、ミャンマーの民政化を好意的にとらえているが。

「悲しいことしかない。当時の軍事政権が2008年に策定した憲法はいまだに残っている。その中には、民主主義とは反対のことが多く書かれている。例えば国会議員の25%、つまり500人中125人は軍人でなければならないという条項だ」

――2008年憲法は改正できないのか。

「現実としてできない。憲法を変えるには国会議員の76%の賛成を必要とする。これは、1%は軍人からの賛成を得なければならないことを意味する。それに、“軍人以外の議員である75%”の7割も元軍人。彼らは軍服を着ていないだけだ」

――ミャンマーについてほかには何が「悲しい」のか。

「牢獄にとらわれている政治囚もいまだに多い。400人以上が解放されていない。解放されたのは、国際的に有名な政治囚だけだ。ミャンマー政府は11月15日、オバマ米大統領の訪問を受けて、残りの政治囚を解放すると言ったが、実際にまだ何もしていないし、今後もしないだろう。すべては国際社会に対するパフォーマンスだ。

ビルマ族を中心とする軍人らは、他の少数民族であるシャンやカレンに対しても、殺害やレイプ、強制労働、強奪などを繰り返している。また、アウンサンスーチー党首が率いる国民民主連盟(NLD)が2012年1月に正式な政党となったが、NLDの党員の8割は軍人だ」

■アウンサンスーチー氏は裏切り者

――焼き討ちやレイプされるロヒンギャの惨状について、民主化の象徴であるアウンサンスーチー氏は何も発言していない。これをどう思うか。

「アウンサンスーチー氏がロヒンギャを支持しないのは当たり前だ。

ロヒンギャはいま、仏教徒の少数民族アラカンから迫害されている。もし、アウンサンスーチー氏がロヒンギャへの支持を表明したら、アラカンから支持を得られなくなる。2015年に予定される総選挙で勝つためには、人口150万人のロヒンギャより、300万人のアラカンの支持を得たいのだろう。

私はずっと、アウンサンスーチー氏を応援してきた。でも、もう信じない」

――2015年の総選挙でアウンサンスーチー氏が負けたら、民主主義どころではなくなるのでは。本当は支持しているが、いまはそれを口に出せないだけではないのか。

「それはおかしい。アウンサンスーチー氏は世界の平和を訴えている。自国の問題すら口にできないのに、どうして世界の平和を語れるのか」

■日本のODAは真の解決にならない

――ロヒンギャは日本政府からどんな扱いを受けてきたか。

「ロヒンギャを含めミャンマーに対して経済的支援ではなく、政治的に支援してほしい。日本政府はいつもお金で解決しようとする。

現在180~200人のロヒンギャが日本にいる。だが難民として認められているのは15人のみ。80~100人は特別在留許可、50人は彼らの家族、そして残りの50~60人はビザすら与えられず、働けない。日本に来て15年が過ぎても、ビザが出ない人も多いのが現状だ」

――日本政府に何を期待するか。

「日本政府は2013年1月から、ミャンマーに対して円借款(政府開発援助=ODAの一種)の供与を再開する。問題が未解決なままでのODA再開は、ミャンマー政府がロヒンギャを迫害するための資金になるだけだ。経済支援の前に、政治囚の解放や2008年憲法の改正、ロヒンギャを含む少数民族への迫害をやめさせるなどの問題を解決するようミャンマー政府に促してほしい」

――ひとりのロヒンギャとして、いま何を一番望むか。

「(ミャンマー政府などに対して)ロヒンギャを殺すことはやめてほしい。ロヒンギャは、2008年憲法が定める『135の民族』にも入っていない。ミャンマー国民として認めてほしい。ひとりの人間として人権を認めてほしい。ロヒンギャを迫害してきた人たちを法的に罰してほしい。事実を調査して、多くの人に知らせてほしい」

■差別撤廃めざして本も出版

――ロヒンギャへの差別をなくすため、ゾーミントゥさん自身は何か活動をしているのか。

「最近では、駐日ミャンマー大使館や日本の外務省あてに、在日ビルマ・ロヒンギャ協会の代表として、ロヒンギャへの差別を訴えるために手紙を書いた」

――ほかには。

「ロヒンギャのことをミャンマー国民にわかってもらおうと、ビルマ語でロヒンギャの歴史をつづった本を出版した。また、世界中の人に事実を知ってもらうために、ロヒンギャが迫害されている事実を書いた本も英語で自費出版(5000部)した。欧米やマレーシアで開く、ロヒンギャの人権問題についての講演会などで配っている。

日本に住んで14年が経つ。解決への結果が得られなくても、希望は失っていない。解決するまで、良くなることを信じて活動し続けたい」

ゾーミントゥ氏
ミャンマー・アラカン州出身のロヒンギャ族。在日ビルマロヒンギャ協会会長。2003年3月、ロヒンギャとして初めて難民認定を受ける。1998年に偽造パスポートを使って来日。最初の8年は渋谷と六本木のレストランで働き、その後、群馬県館林市の工場で3年勤務する。11年間働いて貯めたお金を資金に、2009年、埼玉県川越市でリサイクル会社を興す。ロヒンギャの女性と結婚して、3人の子どもがいる。