「都市農業」を世界蔬菜研究センターが普及促進へ、小規模菜園で年500キログラムの野菜生産も

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■収入向上には収穫後のロス低減も必要

途上国での野菜生産や栄養改善について研究・開発する世界蔬菜研究センター(AVRDC:The World Vegetable Center)は、各地の実情に合わせた、都市部での野菜生産の普及に取り組んでいる。ドイツ経済援助省などの支援を受けて発行されている雑誌「Rural21」でこのほど、都市農業における野菜栽培の重要性と収穫後の取り扱いをまとめた内容が紹介された。

途上国の都市部では、40%以上の世帯が自家用・販売用に野菜を生産している。とくに貧しい家庭では現金収入の大きな割合を占めている。野菜の自家生産は、食料と収入両方の確保に対して重要な役割を果たすほか、多様な栄養を摂取でき、ビタミンやミネラルなど健康維持に不可欠な成分の供給源ともなっている。

野菜はまた、限られた面積で相応の収穫を得られることから、都市やその近郊での農業に適した作物だ。AVRDCが開設した6メートル四方のモデル家庭菜園では年間250~500キログラムの生鮮野菜を生産できるという。この量は4~6人の家族で、世界保健機関(WHO)が健康を維持し、慢性疾患のリスクを低減するために推奨している1人あたり1日200グラムの野菜摂取をまかなえるものだ。

さらに、都市やその近郊では農場から最終消費者までの物理的距離が近いため輸送費を抑えることができ、仲買人らを通さずに自ら販売し、利益を確保することができる。

■注意点は「水」「収穫適期」「蒸散対策」

これらの農産物を販売して利益を上げるためには収穫後の取り扱いに注意を払い、安全性を確保し、品質を悪化させない工夫が必要となる。

「水質」がまず、都市部での農業生産で考慮しなければならない要素だ。灌水や収穫後の洗浄のために用いる水の水源が工場や家庭からの廃水で汚染されているかもしれない。さらに農薬を適切に利用していない場合には、残留成分が混濁してしまっている可能性もある。こうした水を野菜の洗浄に利用する場合、細菌、重金属、農薬の残留成分による汚染を引き起こしてしまう。そのため、汚染の疑いのない水の確保が重要となる。

また、良好な品質の野菜を市場へ供給するためには「収穫適期」を逃さないことも重要なポイントだ。例えば葉物野菜はその大きさが最大となり、変色や繊維質が多くなる前に、トマトは赤みが果実に現れた段階で収穫する。

収穫後は、規格基準に従って傷みのあるものや病虫害の被害を受けたものは取り除く。さらには出荷・包装形態を統一することで消費者にとって魅力的なものとなり、高価格で取引されやすくなる。

収穫後の品質管理では水分の「蒸散抑制」も課題だ。ルワンダでの研究では、アマランサス(ヒユ菜)は30分で11%の重量が減少した。また、ベナンでは卸売市場で89%の葉物野菜が品質面での損害を受けているという調査結果もある。葉物野菜は表面積が大きいため水分が蒸散しやすく、水分が5%損失すると萎れが目に見えるという。

こうした収穫後のロスを減らすためには、早朝や夕方といった気温の高くない時間帯に収穫すること、収穫後は日陰に一定時間置くことで野菜が持つ熱を取り除くこと(予冷)が対策として考えられる。氷を利用したり、湿らせた麻布やわらをかぶせたりすることも蒸発冷却の仕組みを利用した予冷対策となりうる。

出荷資材については、葉物野菜はポリエチレン製の大きな袋に詰められる場合が多いが、これだと輸送時に傷ついたり、つぶれたりしてしまう。竹かごも表面に突起があることが多く、表皮が柔らかいトマトなどの輸送には不向きだ。そこで、勧められるのはプラスチック製のコンテナ。これには表面に突起もなく、つぶれなどの被害を抑えることができる。

途上国では施設や資材などのハード面でも、取引慣行などのソフト面でも先進国のような安全性や品質確保への対応がなされていない場合が多い。生産者や流通関係者の意識が低いことも要因としてあるだろうが、ロスの低減が収入向上につながると彼らに認めさせることができれば、生産者の収入と消費者の満足度をともに向上させる価値のある取り組みになるだろう。(真下智史)