【ルポ・ミャンマーからの逃亡者を追う②】薬とビニールシートを持って難民に会いに行ったら‥‥

ミャンマーと国境を接するタイ側の町メーソットでミャンマー難民を支援する団体「ボーダー・エマージェンシー・ファンド(BEF)」のスタッフとして働くジェームス。ミャンマー北西部のチン州出身のクリスチャン。いつも冗談を飛ばす彼が私の取材を助けてくれたミャンマーと国境を接するタイ側の町メーソットでミャンマー難民を支援する団体「ボーダー・エマージェンシー・ファンド(BEF)」のスタッフとして働くジェームス。ミャンマー北西部のチン州出身のクリスチャン。いつも冗談を飛ばす彼が私の取材を助けてくれた

「今日はこれで終わり」って

最初に向かったのは、メーソットの中心にあるメーソットマーケット。ここで野菜を買い込むのだという。ジェームスはマーケットの中にある八百屋の前にトラックをつけると、店のおばちゃんに声をかけた。すると男たちがトラックに白菜やトマト、玉ねぎといった野菜を次から次へと載せ始めた。袋にぎゅうぎゅうに詰められた唐辛子もある。

「週2~3回は来るからね」とジェームス。あらかじめ準備されていた野菜を男3人が手分けしてトラックに載せていく。ものの10分で積み込み作業は完了した。

その間、ジェームスは八百屋のおばちゃんとずっと世間話をしていた。ジェームスは小柄で愛嬌のある顔立ち。ミャンマー人だがタイ語も堪能だ。タイ人との関係も良さそうで、おばちゃんからおまけまでもらっていた。

野菜を積んだピックアップトラックはその後、地元のNGO「ヘルプ・ウィズアウト・フロンティア」のオフィスに到着した。BEFは4つのNGOから成る団体で、ヘルプ・ウィズアウト・フロンティアもそのひとつ。ジェームスはそこで野菜を別のトラックに移し替え、こう言った。

「よし、今日の仕事はこれで終了だ」 

「あれ、メーコーケンに食材を持っていかないの?」

私がジェームスに尋ねると、こう返ってきた。

「最近はタイ政府の規制が厳しい。今は支援物資を1台の大きなトラックにまとめて持っていくんだ。今日はヘルプ・ウィズアウト・フロンティアがメーコーケンに物資を運ぶから、俺の仕事はこれでおしまいさ」

「ちょっと待ってくれ」。NGOの記事を書こうにも、野菜を買っただけではネタにならない。なにより難民に会うという裏の目的が全く果たされていない。なんとかメーコーケンに行けないか。私は粘り強くジェームスに頼み込んだ。

するとジェームスは私にこう質問した。

「検問所で止められるかもしれないけど、それでも行きたいか」

私は間髪入れずにイエスと答えた。するとジェームスは「よし、分かった。どうなるかわからないけどやってみよう」と言って、私をまたピックアップトラックに乗せた。

なかなか着かない避難所

やってきたのは薬局だった。

「TK(筆者のこと)、メーコーケンに入るのにも理由がいる。俺が個別にコンタクトをとっている難民の女性が今、薬が足りないと言っている。それを持って行けば、タイ軍が管理する検問所を通過できるかもしれない。薬のお金を出してくれないか」

ジェームスはこう提案した。

私は「大丈夫だ。ぜひ買わせてくれ」と言い、財布の中にあった2000バーツ(約7300円)をジェームスに渡した。メーコーケンに行きたい。それが難民の支援につながるのだったら、なおさら良い。ジェームスはそのお金で、彼女が指定する薬と新型コロナの予防用にハンドサニタイザーを買った。

薬をトラックに載せ、いざメーコーケンへ出発。と思いきや、今度は雑貨屋に止まった。

「TK、知っているだろ。昨日、季節外れの大雨が降った。野宿をしている難民も大変だったらしい。このビニールシートも買ってくれないか」

「も、もちろんだ。自分にできることだったらなんでもする!」

少しずつ薄くなる自分の財布に不安を感じつつも、私はまた2000バーツ(約7300円)をジェームスに差し出した。ジェームスは「ありがとう」と言って、ビニールシートを購入すると、それをトラックに積み込んだ。

さあ今度こそ、と思って着いたのはムスリム(イスラム教徒)のためのレストラン。腹が減っては戦ができぬ、と言わんばかりにジェームスはカレーとビリヤニ(インドの炊き込みご飯)を注文する。うまそうにカレーを食べるジェームス。

「この男についていって本当にメーコーケンにたどり着けるのか」

私は不安を抱きながらも、ジェームスの分まで会計をすまし、再びトラックに乗り込んだ。ジェームスは気分が良くなったのか、鼻歌を歌いながらトラックのエンジンをかけると一路北へと出発した。

メーソットのマーケットにはさまざまな野菜がたくさん売られていた

メーソットのマーケットにはさまざまな野菜がたくさん売られていた

ミャンマー難民を助ける地元NGOのひとつ、ヘルプ・ウィズアウト・フロンティアのスタッフ(左)とジェームス(右)。メーソットのオフィスで撮影

ミャンマー難民を助ける地元NGOのひとつ、ヘルプ・ウィズアウト・フロンティアのスタッフ(左)とジェームス(右)。メーソットのオフィスで撮影

トラックに積まれた野菜。ミャンマー国軍の空爆で家を失い、避難するミャンマー人に届けるものだ

トラックに積まれた野菜。ミャンマー国軍の空爆で家を失い、避難するミャンマー人に届けるものだ

1 2 3 4