ウクライナ侵攻を非難する人道決議に反対・棄権した国は「本当にロシアの味方」なの? 市民のホンネを聞いてみた

ラオスの首都ビエンチャンの穏やかな街中。バイク社会のラオスでは、市民の関心は国外の戦争よりも毎日のガソリン代に向くラオスの首都ビエンチャンの穏やかな街中。バイク社会のラオスでは、市民の関心は国外の戦争よりも毎日のガソリン代に向く

民間人の虐殺、レイプ、強制連行――。ロシアによるウクライナ侵攻が泥沼化している。ganas編集部は、国連の「ロシア非難」の決議に反対・棄権した43カ国のうち4カ国を取り上げ、「その国の市民は自国政府の立場に賛同しているのか、それともウクライナを支持するのか」を聞いた。そこで見えてきたのは、歴史に隠れたロシアとのつながりや平和を願う市民の姿だ。

ロシアのウクライナ侵攻をめぐって国連総会は3月24日、ロシアを全面的に非難し、民間人の保護などを求める米欧諸国主導の人権決議案を140カ国の賛成多数で可決した。だが一方でこの決議に反対したのは5カ国、棄権は38カ国にのぼった。

シリア「ウクライナもいつか忘れられる」

人道決議に反対した国のひとつがシリアだ。

シリア政府が投じた反対票に対し、シリア人の間では意見が割れている。シリア国内にとどまるシリア人の大多数は、ロシア側につくシリア政府(アサド政権)に賛同する。シリア国内のテレビ局や新聞の報道もロシアに味方するものばかりだという。

スウェーデンの中学校で教師のアシスタントとして働く40代のシリア人男性によると、シリア国内のシリア人のほとんどは「シリア政府の反対票は公平な判断だ」ととらえているという。シリア国内のシリア人の考えについて彼はこう代弁する。

「今回の戦争はロシアとウクライナの戦いではなく、ロシアと西欧諸国の戦い。(欧米の軍事同盟である)NATO(北大西洋条約機構)が勢力を拡大しているため、ロシアのウクライナ侵攻は自国を守るためにしかたない選択だった、と考えるシリア人が多い。シリア国内のシリア人の多くは、ロシアを悪いと思っていない」

こうした考えがシリア国民の間で浸透するのは、シリアと西欧諸国の間に「因縁の歴史」があるからだ。

「ロシアと同じように、シリアも西欧諸国と長く対峙してきた。なのでシリア政府の一票は、ロシアとともに立ち上がるための名誉あるものだ、とシリア人は考えている。西欧諸国に屈さないリーダーとしてプーチンを英雄視する人もいる」(前述のシリア人)

だが一方で、2011年に勃発したシリア危機で海外に逃れたシリア難民の間では、「ウクライナ市民のためには戦いを早く終わらせるべき」とウクライナに同情する声も少なくない。理由は、紛争が長引けば長引くほど、シリアがそうだったように、戦争孤児やホームレスといった多くの問題が待ち受けているからだ。

前述のシリア人男性は「シリアとウクライナの境遇は似ている。シリア紛争では世界の国々が介入し、政府側と反政府側に分かれて支援した。だがいまとなっては、シリア人が苦しんでいるのに誰も助けてくれない。多くの国がいまウクライナを支援しているが、最後は誰もウクライナのことを気にしなくなるのでは」と危惧する。

南ア「アパルトヘイト撤廃でロシアに借りがある」

南アフリカ共和国は、人道決議に棄権を投じた国のひとつだ。だが市民は、南ア政府の立場に必ずしも賛同していないという。

南ア在住の60代の女性は「プーチン大統領と彼が起こした恐ろしい行動を支持しない。家族や友だちもそうだ。南ア政府がロシア非難決議に賛成しなかったことは誤りだと思う」と言い切る。

南ア政府が賛成票を投じなかった理由についてこの女性は、ロシアと南アの「歴史的な関係」が影響していると分析。「南ア政府は、ロシアを非難していないように見せなければならない。なぜならロシアは、アパルトヘイトの撤廃を当時求めて運動していたアフリカ民族会議(ANC。南アの現在の政権党)に武器を提供したり、ANCのメンバーを訓練したり、かくまったりして助けてくれたからだ」と説明する。

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